「外国人労働者受け入れ、もっと長期的に見て」パソナグループ南部代表 独占インタビュー(後編)

-外国人労働者の受け入れ緩和が叫ばれている
 人手不足が深刻化している状況は理解できるし、喫緊に解決すべきことだと思っている。しかし、安易に外国人労働者を数十万人単位で受け入れる、という政府の発表には時期尚早の印象を受けた。“外国人労働者”と柔らかい表現で言い換えられてはいるが、いわゆる“移民政策”と何が違うのか。国家のあり方に関する問題をこんな早急に決議して良いのか疑問だ。もっと長期的な視点に立って向き合うべき。目先の問題だけを見るのではなく数年単位の長いスパンで判断すべきことだ。

-外国人労働者受け入れで、とくに懸念していることは?
 国内の外国籍人材と国内の求人数の需給バランスの問題だ。国内の大学・専門学校を卒業する外国人で(不足する)労働力を充足できるという見方もある。数十万人単位で労働者を外国から新たに迎え入れようという動きがある中で、日本には同様に数十万にのぼる外国人留学生が在籍している。彼らの中には、日本の学校を卒業すると同時に、日本で仕事に就くことができないために母国に帰っていく人も相当数いるという現実がある。せっかく母国を離れ日本語を学んだにも関わらず、それをうまく活かしきれていない。彼らの就業機会の創出などにもっと目を向けるべきだ。

-日本が外国人労働者の受け入れを一斉に行う際に、想定される問題は?
 食事や宗教など暮らしの面もあるかと思うが、やはりセーフティーネットの早期構築が欠かせない。外国人労働者を受け入れるとなれば、日本人と同様に同一労働同一賃金など雇用環境の整備も必要とされる。労働政策と入管政策は所管官庁をまたぐ問題。様々な法制度の整備が必要だ。さらに、日本での雇用期間の終了後に、彼らが日本で培った技術を母国で発揮するためには、「どこの企業でどういう業務に携わったのか」を相手国へ日本側が明確に示さなければならない。失業保険など、彼らが日本で安心して働くには、他の問題もあるだろう。
 技術と言語の問題も大きい。言語が困難でも熟練した技術を持つ人、一方で技術に関しては未経験だが、日本語の理解力が高い人。国、企業で言語、技術の習熟度をどう線引きして評価するのかも複雑になる。

-業種によって従業員の充足感が異なる。雇用の流動性に対する考えは?
 まず、人手不足が喫緊で最も厳しいのは建設業界。次いで介護。IT関連もずっと不足している。
 雇用の流動性に対しては、例えばITの分野であれば、一様に海外の人材を日本に呼び込むのではなく、“海外へ(労働の)委託をする”という流れが必要だ。労働市場もEUと同じように、アジア全体で人材を融通できれば、不足する地域の労働力を補うことができる。アジアだけで難しいのであれば、オセアニアも含めても良い。例えば、韓国で人材に少し余裕のある状態で、日本国内で人手が逼迫しているのであれば、韓国から日本へ期間を決めて迎え入れる。そして任期が満了したら、また不足する地域で力を発揮してもらう。

インタビューに応じる南部代表(TSR撮影)

インタビューに応じる南部代表(TSR撮影)

-地方でのマッチング業務に積極的だ
 地方の過疎化や首都圏での待機児童など、山積する社会問題に起因するのは東京への“一極集中”だろう。国内の不透明な経済状況のなか、再度リーマン・ショックのような不況が訪れたとき、首都圏、国内の雇用は大変なショックを受ける。国家の“リスクヘッジ”の観点からも地方創生は急務だ。
 U・Iターン事業も我々をはじめ、民間レベルで進めているが、まず地方における雇用のミスマッチを解消することから始める必要がある。まだその(初歩的な)段階であると言える。地元に帰りたいと思う人は一定数いるものの、彼らが望む“首都圏で培った経験を生かせられる仕事”が地方で見つけられないケースも多い。そこで私たちが仕事を見つけ、U・Iターン希望者に紹介している。
 若いスタートアップ企業などで、四国や山梨などに拠点を移す動きもあり、地方創生に目をつける人がようやく出てきた。

-地方創生でネックとなることは?
 官庁の首都集中だろう。官庁の移転が進まないことには地方創生は本格化しない。今、すべての社会機能が東京にあり、地方への人や企業の流れを妨げている。せっかく移転したい若い人や設備投資を考える企業が増えても、銀行の拠点も地方から撤退している状況。例えば、ニューヨークとワシントンが機能分化されているように、日本も政策的に都市機能を分けなければ、地方創生は加速しない。

-地方では民間に比べハローワークが強い地域もあるが。
 取り組みでみれば、ハローワークは民間に比べ遅れている面が多く、市場のニーズとかけ離れているのが現状だ。特にIT技術者へのニーズ把握が困難であると聞く。かつては、職を求める側にも企業側にも大変必要とされていた機関だ。しかし、以前のように書類だけを照合して企業を紹介する時代は終わってしまった。
 近年は「若者向けの」、「女性だけの」、「シニア世代向けの」と細分化を進めた取り組みもあるが、そういう枠組みだけでは測りきれない指標でのマッチングが、やはり求められている。

 南部代表は、労働力不足の早期解決の必要性に理解を示すものの、外国人労働者の新たな受け入れは、「慎重に進めるべき」と述べる。背景には、不透明感の強い経済動向がある。「いつリーマン・ショック級の景気下降が発生し、“人余り”となるか分からない」と懸念する。今後の景況感についても、「早ければ、今年秋にも景気後退の波が起こるだろう」とシビアな見方も示す。
 移動の際には、もっぱら公共交通機関や自家用車を自ら運転する。公務、私用を問わず、空港への移動もモノレールかバスを利用する。「もう20年ぐらい自分の足で移動している。街を歩くことで社会状況やトレンドが自然と入ってくる」と世の中を見据えながらも、インタビューでは穏やかな笑顔を見せた。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年6月5日号掲載予定「Weekly Topics」を再編集)

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