裁判員制度10年 長崎県内373人経験 事件の重さを肌で感じた 

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「裁判員を務めることへのハードルは今も高い」と話す裁判員を経験した女性

 裁判員制度が始まって10年。県内では今年1月末までに373人が裁判員、138人が補充裁判員を経験した。市民感覚が反映される傾向は強まる一方、制度普及や裁判員の負担軽減に課題が残る。当事者の声を基に現状と課題を探った。

 「本当にこの人が性犯罪をしたのか」

 2018年12月、強制わいせつ致傷事件の初公判で、裁判員を務めた長崎市西海町の男性(69)はそう感じた。被告の男はいかにもまじめそうに見え、「顔もスタイルも悪くない」というのが第一印象。だが、公判が進むと被害女性の恐怖心やトラウマ(心的外傷)が証言で伝えられ、見方は変わっていった。仮に自分の娘が被害者だったら-。親の目線で事件と向き合うと心苦しくなり、事件の重さを肌で感じた。

 男の供述から常習性が見受けられた。量刑を考える上では「仮に執行猶予が付けば、あまり反省せずにまた同じ犯罪を繰り返すのではないか」と考えた。評議の結果、下した判決は求刑より2年軽い懲役4年。「積極的にけがをさせる意思は見られなかったが、被害女性は殺されるかと思うほど怖かっただろう」。男性は妥当な量刑だったと振り返る。

 裁判員制度の開始10年に合わせて最高裁が公表した総括報告書によると、刑事裁判に「市民感覚」が反映され、性犯罪の厳罰化が進み、殺人などで執行猶予が付くなど量刑の幅が広がったとしている。弁護士や市民らでつくる「裁判員ネット」(東京)の代表、大城聡弁護士は「個々の事案に応じて量刑に幅が出ている」と評価する。

 ◎人を裁く負担と配慮 審理長期化/仕事に影響も 写真の制限/裁判官が解説

 長崎県内で裁判員候補者に選出されながら辞退した人の割合(辞退率)は年々増加傾向にある。10年平均で66.9%。全国平均62.5%を上回った。負担をどう減らせばいいのか。裁判員経験者に取材すると、仕事や、人を裁くという心理的な負担を抱えながら参加しており、会社や裁判官らの配慮によってストレスを軽減できたと打ち明ける。

 5月23日、昏睡(こんすい)強盗致死事件の長崎地裁判決後の会見。補充裁判員の一人は「上司の理解があり職場に休みをもらったが、自分が持っている仕事は放置している状態。今も(仕事の)焦りがある」と不安を口にした。初公判から判決まで計11日間、拘束された実審理期間は負担となった。

 ■長崎県内最長は64日

 最高裁は辞退率増加の要因の一つに「審理の長期化」を挙げる。長崎県内の平均実審理期間は7.6日と初年度の4日より延びた。県内の裁判員裁判では、2016年12月に起きた対馬市の父娘殺人・放火事件が64日間で最長だった。

 辞退率の高さについて長崎総合科学大の柴田守准教授(刑事法)は「大企業や公務員でなければ、仕事を休んだり代わってもらったりするのは現実的に難しい。長崎は中小企業がほとんどで、離島が多い点も多少は影響しているのではないか」と分析する。

 裁判所は裁判員の負担を軽減するため、遺体写真などの刺激証拠の制限や審理期間の調整に苦心している。これについて県弁護士会の森永正之会長は「裁判は被告人を裁くための手続きで、検察側と弁護側はそれに必要な証拠をそろえる。裁判所が裁判員ばかりに目を向けて制限をかけすぎると、立証する側には不満も出る」と指摘する。

 「審理の迅速化」に違和感を覚えた人もいる。長崎市の男性(58)が裁判員を務めたのは実審理期間が4日間の強盗致傷事件。被告の量刑について各裁判員で異なる意見が上がっていたが、判決日は翌日。「もう少し時間をかけて話し合ってもよかった。人を裁くというのはそれだけ重いことだと思う」

 ■守秘義務緩和を

 一方で、最高裁が経験者に毎年実施しているアンケートでは、「良い経験」と回答した割合が10年を通して95%を超えた。裁判所には「時間の経過とともに裁判への興味がわいた」(60代男性)、「自分には関係ないと思っていた裁判が身近に感じられた」(30代女性)などと経験者の声が寄せられている。

 背景には法曹三者による「雰囲気づくり」も影響しているのだろう。傷害致死事件を担当した西彼時津町の女性(52)は「裁判官の配慮がありストレスなく裁判に臨めた」と話す。裁判員は裁判官と一緒に昼食を取りながら雑談し、公判中に検察側と弁護側の主張で不明な点があれば裁判官がかみ砕いて解説してくれた。人を裁くという重責はかなり軽くなったという。

 だが、裁判員を務めることへのハードルはいまだ下がっているとはいえず、この女性も「裁判と聞けば普通、ネガティブな印象を持つ。制度のことをよく知らない人は初めから拒絶反応を示すだろう」。

 弁護士や市民らでつくる「裁判員ネット」の代表、大城聡弁護士は「裁判員になることでの一定の負担は避けられない」としつつ、「評議全般に課されている守秘義務を緩和し、裁判員経験者の『良い経験』を広く市民に共有することが必要だろう」と提言する。