「選挙の心得」ばかりでは

 プロ野球の名将、野村克也さんの言葉として知られている。〈勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし〉とは、そもそも平戸藩主の松浦(まつら)静山が残した剣術の心得という▲運よく勝つことはあっても、負けにはちゃんとした理由がある。勝ちは謙虚に受け止めなさい。敗れたらなぜかを突き止めなさい。そういうことだろうか▲これとは逆かもしれない。安倍晋三首相の選挙の心得は〈勝ちに不思議の勝ちなし〉にも見える。自民党が政権に返り咲いた後の国政選挙で、ご存知の通り、与党は連勝している▲2013年の参院選はアベノミクスへの期待感から自民が圧勝した。14年の衆院選は、勝てるタイミングを見計らって首相が解散を仕掛けたとされ、「無風の勝利」を手にした。16年参院選も大勝ち、17年衆院選は「安倍1強」の批判勢力が割れて、またも大勝ち…▲計算を重ね、勝機をうかがい、ものにする。それが全てではないのだろうが、第1次内閣から数えて安倍首相はきのうで在職2720日となり、歴代3位に並んだ▲戦後最長の佐藤栄作は、沖縄返還という大仕事を成した。選挙で「歴史的な勝利」を収めたとしても、安倍首相の仕事ぶりに「歴史的な」の形容は付くかどうか。参院選が近いが、胸に置くべきは「選挙の心得」だけのはずがない。(徹)

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