ガリバーの日

 現代では誰もが知る外国人がその昔、長崎にやってきた。と言っても物語の中の出来事で、イギリスの作家スウィフトが書いた「ガリバー旅行記」の主人公は、310年前のきょう6月9日、長崎に到着している▲新潮文庫「ガリヴァ旅行記」を開けば、江戸時代の日本にたどり着き、将軍に会ったガリバーは、私はオランダ人であり、母国に帰れる機会もあるはずだからナンガサク(長崎)に行かせてほしい、と頼み込む▲願いはかない、長崎の港でオランダ船に乗って欧州へ…と話は進むが、ガリバーが長崎を交易の窓口と知っていたり、踏み絵とおぼしい「十字架踏みの儀式」は勘弁を-と拒んだりと、かなり日本に精通している▲なぜだろう。物語が書かれた時期は、出島の医師だったケンペルがアジアについて事細かく書いた「廻国(かいこく)奇観」の発刊の年、1712年とほぼ重なる。この書物をスウィフトは種本にしたのではないか。元長崎女子短大教授の池崎善博さん(80)はかつて本紙にそんな趣旨の寄稿をした▲出島にいた人物の記述が物語となり、今に残るとすれば、どこか楽しく、縁(えにし)を感じさせる▲「毎年6月9日、出島でガリバーの“歓迎行事”をしたら楽しいですね」と池崎さんは言う。ナンガサクとして物語に名を残した記念日に。それも一興だろう。(徹)

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