進化し続ける炊き出し(その1) 現地で手間暇をかけない

倉敷で倉敷市真備町岡田小学校での炊き出し風景―大和重工株式会社の新入社員とともに「野菜たっぷりのちゃんこ鍋」

炊き出しにどんなイメージをお持ちですか?

「料理道具や食材など、一切、被災地に持ち込んで、現地で全て料理すること」

そう思っていませんか? もしそうであれば、残念ながら外れです。ここでご紹介する「進化した炊き出し」は、現地で手間暇をかけない超進化したものです。最近の進化を遂げている炊き出しの実例とその背景を探りましょう。

私が、実際に「進化した炊き出し」に遭遇したのは2018年。傷跡が色濃く残る西日本豪雨災害の被災地、堤防が決壊し家々が濁流に飲まれた岡山県倉敷市真備地区です。これまでの災害の炊き出しとは大きく違っていました。

保健所に炊き出しを申し出た同僚Dさんは、これまでやってきた炊き出しの流儀が通用しないことを知って面食らいました。保健所の指導は「キチンとした屋内のキッチン(調理場)で食材の下処理を終えた後に、被災地入りしてください」というものでした。

そこでDさんはキチンとした調理室で食材の準備を済ませ、ビニール袋に密封して、保冷しながら現地に運送しました。その結果、現地では大釜での加熱を残すだけになりました。全ての下処理は、水道の出る、冷房の効いた調理場で完了したわけです。なぜ、こうしたのでしょうか。それは、連日襲い掛かる猛暑のためです。

猛暑続きの被災地の炊き出し現場

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西日本豪雨災害(2018年7月上旬)の後、当地の炊き出しは7月11日から11月末まで行われました。特に7~9月までの3カ月間は30度以上の猛暑日が100日間中44日間、35度以上の日が25日間続いています(表)。もちろん、テントを張って炊き出しをしていますが、昼食を配る頃、照りつける日差しは目もくらむほどでした。

食中毒のリスクを避ける徹底ぶり

保健所は、さらに食中毒が起こる予感のする料理(下表の黄色の部分)を申し出た人に、その料理は「控える」ように指導しました。てっとり早く言えば「危ないから、止めた方がいいよ」という忠告で、手作りにストップをかけたわけです。現にその2年前(2016年)の熊本地震では「手作りおにぎり」で食中毒事件が発生し病院に救急搬送されましたから。

手作りする時のダメ出しと注意点(倉敷保健所)

写真を拡大 倉敷保健所の資料をもとに作成

表の緑の部分は、食中毒対策の具体例を強調している箇所です。平たく言えば、キチンとした調理室で調理を済ませて、保冷・運搬するということ。気温の高い屋外でモタモタ料理をしていると、鮮度が低下し、最悪、腐るということを避けるためです。もちろん身近の場所には冷蔵庫もありませんので。

さらに、食中毒を避け、安全安心を優先するために次の策が練られていました。想定外を減らすための保健所ならではの賢明な施策です。

手作りより市販品を利用し想定外のリスクを減らす

写真を拡大 筆者作成

被災地はライフラインが停止し、洗い物や加熱調理が極めて難しい。そこで、手作りではなく、自社製品を勧めています。自社製品は、衛生基準による衛生管理が行き届いた設備で製造され、賞味期限が表示されています。倉敷市保健所は事前にボランティアの炊き出し指導に専念した結果、食中毒事件もなく、被災者は安全安心な炊き出しの恩恵に浴しました。

今後の災害に向けて、以前はこうしていたという炊き出しの風習は通用しにくい場合が発生しつつあります。保健所のリーダーシップは言うに及ばず、企業、行政、自主防災、ボランティア団体のみなさんの「環境順応型」「進化型」の事前学習が強く望まれる今日です。

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質問 衛生管理のポイントは?

Q. 倉敷市保健所の食中毒予防のための衛生管理のポイントをまとめてください。私の知人でマンションにお住まいの方が「いざというときは、各戸で握り飯を作って持ち寄り、皆で分け合う」と言っています。

A. ちょっと待って! それ危ないです。以下をよく読みましょう。

倉敷市保健所の食中毒予防のための衛生管理のポイント

生ものの使用は避ける。工程が複雑なものは許可施設で調理すること。非衛生な場所、屋外や各家庭で手作りしたものを持参しない。調理品を現地で切り、加工することは避ける。運搬時の温度管理(保冷)に配慮すること。

Q. 「キチンとした調理室」とは? もっと丁寧に教えてください。

A. 会社には湯沸かし室がありますね。しかし、狭くて調理には不向き。冷蔵庫、熱源、換気ともに不十分です。公民館のお茶くみ場も同じです。将来に向けて、地域の集会所には調理専用の衛生的な作業場が必要です。地域住民が共同作業できる専用のキッチン=調理場を併設する必要があります。調理場は共助の出発点であり、健康のカナメ・拠点ですから。

(了)

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