WEC:2020/21年の新車両規定は”自由度”高し。さまざまタイプのハイパーカーをBoPで管理へ

 第87回ル・マン24時間レースが開催中のフランス、ル・マンでACOフランス西部自動車クラブのプレスカンファレンスが行われ、2020/2021年のWEC世界耐久選手権でトップカテゴリーとなる“ハイパーカー規定”の概要が改めて明かされた。

 昨年のル・マンで、現行のLMP1に替わるカテゴリーとして発表された新車両規定は、ロードカーに近い外観を持つハイパーカーと、ローコストでシリーズに参戦できることがアピールされた。

 その後、ACOは2018年12月に行った技術規定の公開を含め、複数回に渡って新たな車両ルールについてのインフォメーションを繰り返してきたが、今回のカンファレンスで、正式名称が決まっていない2020/21年規定の細部が確認されている。。

 現在、“ハイパーカー”の通称で呼ばれている規定は、2020年9月から始まるWEC世界耐久選手権の新シーズンから正式に採用されることが決定。この新カテゴリーの創設にあたっては、マニュファクチャラーおよびプライベーターチーム間の競争の保証、年間予算の管理、そして華々しいスポーツカースタイルの採用という3つの指針が立てられたという。

 参戦車両については、既報のとおりハイパーカースタイルのレーシングプロトタイプカー製造する方法と、市販ハイパーカーを基にレーシングカーを仕立てる方法のどちらも認められる。しかし、後者を選択した場合はベースとなるモデルを、2年以内に20台以上製造しなければならないという条件が付随する。

 この新たな競技車両のミニマムウエイトは1100kgとされ、パワートレインの最高出力は750馬力(550kW)となる。エンジンは純ハイパーカーとロードカーベースのハイパーカーで規定が異なり、前者は専用設計のレース用エンジン又はハイパーカーに搭載されるモデルの改良版が許可される。一方、市販車ベースではオリジナルカーのものあるいは、同じマニュファクチャラーが製造するエンジンに限られる。

 また、ハイブリッドシステムについては搭載を義務付けることはせず、ノンハイブリッド車の参戦も許可された。電気モーターの出力は最大270馬力(200kW)。その駆動の伝達は前輪のみに認められた。つまり、新規トップカテゴリー内には現行のLMP1と同様に、二輪駆動車と四輪駆動車が混在することを意味している。

 なお、ハイブリッドシステムの出力タイミングは2013年以来、ふたたび規制されることとなった。具体的にはドライコンディションで120km/h以上から。ウェットタイヤ使用時には140~160km/h内の作動に限られる。

 以上の確定したルールをみても、クルマの成り立ちや搭載するエンジンの種類、マシンにハイブリッド搭載するか否かなど、さまざまなタイプのマシンが参戦可能であることが分かる。

 このことについて、ACOのピエール・フィヨン会長は、前年の概要発表から多くのマニュファクチャラーが新規定に興味を示してきたが、みな、新たなカテゴリーが確実に成立するという保証を強く求めてきたという。

 実際に、この規定の草案を形作ってきたテクニカルワーキングには多数の自動車メーカーの担当者が参加していたことが確認されているが、これまでに参戦を正式発表した大手メーカーはトヨタを含めて皆無だった。

 しかし、今回の発表の場には現在LMP1クラスで唯一ワークス参戦しているトヨタ以外の日本メーカーからも担当者が訪れており、ふたたび日本勢がル・マンのトップカテゴリーを競い合う姿が見られる可能性も否定できないだろう。

 なお、新規定マシンのル・マンでの目標ラップタイムは、当初3分20秒だったものが3分30秒へと修正された。使用するタイヤはシングルサプライヤーのものと発表されたが、現時点でメーカー名は明らかにされていない。

 また、ACOとFIAはこの新たな規定のもとで生まれた車両をオートマチックBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)で管理する意向だが、同システムは現在、ル・マン24時間以外のWECシリーズ戦において、LM-GTE Proクラスで採用されている。新車両規定についてはこれまで北米のIMSAで採用されているDPiや、WECのGTEをトップカテゴリーに昇格させるGTE+といった案も出されていたが、それらは退けられた形だ。

ACOのプレスカンファレンスの様子
ACOのプレスカンファレンスの様子

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