断れない立場の部下へのアルハラに注意 仕事に悪影響、無理強いは禁物

アルコールも含め、無理強いはいけません

酒好き部長の公私混同

「おーい、じゃ、今夜軽く行くか!」部長の大声に追従するように、メンバーが「いいですねー、行きましょう!」と答える。黙っていると「B君も行くよなっ」ということになり、いつも断れないのです。

というのも、先日廊下で、こんな会話を聞いてしまったのです。

「っていうかさー、飲み会断るやつの気が知れないよ。それで査定が決まるっていう事知らないのかな。俺なんて、二日酔いだろうが、娘の運動会だろうが、とにかく上司に誘われたら断ったことなかったね、うん」
「ですよねー、部長。昼間の会議で言えなかったことも、酒の席ならすんなり通っちゃったりしてね、えへへへ」
「だよな。ところで今夜、どう」
「もちろんお供しますよー」

Bさん(男性・28歳)が働く会社は、都内にある500名程度の中堅メーカー。Bさんは、その本社・生産管理部門の主任として働いています。昨年異動してきた部長は明るくていい人なのですが、自分と意見の違う部下がいると徹底的に論破しないと気が済まないタイプ。加えて根っからの酒好きときています。酒に付き合わない部下、というのが信じられないらしく、査定にも響くというのだから恐れ入ります。

Bさんは、体質的にお酒が得意でないということの他に、部長との飲み会に付き合いたくない理由がもう一つありました。それは…。

上下関係に潜む闇

「よーし! じゃ、次の店、皆行きたいよな?」と部下を連れて行くのが、その手のお店。つまり、女性が性的なサービスをするお店です。Bさんは、お酒以上にそういう場所が苦手で、一度部長にハッキリ断ったことがあるのですが、「なーに言ってんだ。そんなことだから嫁さん来ないんだよ!」と軽く頭をはたかれて、まったく取り合ってらえません。盛り上がる同僚たちを横目に時計ばかり眺めていると「おいおい、B君はまだ女性経験がないみたいだぞ!」と大声で言われ、みんなは一斉に爆笑。えげつないヤジの嵐となったのです。 

Bさんはそのことを思い出すたびに気分が悪くなり、ある日を境に、電車に乗れなくなってしまいました。心療内科を受診すると、ストレスによる症状という診断で、1カ月の休職を要するとのこと。部長に診断書を郵送し、今は自宅で休んでいます。

昨今、お酒の席での振る舞いが、働く人のモチベーションを左右することもある、という考え方が浸透してきました。アルコールハラスメント(アルハラ)という言葉もあるほどで、昔は職場の潤滑油だったお酒も、今では個人の趣味として、無理強いはできない時代です。

今回の事案は、2つのハラスメントが含まれていました。一つは無理矢理二次会に誘うこと、そして、Bさんの女性経験について侮辱とも取れる発言をしたことです。いずれもお酒の席で行われたことなので、アルコールハラスメントとして分類できますが、その背景には、上司と部下の関係があったことを忘れてはなりません。

仮に同僚から誘われたら「飲みたくないよ、行きたくないよ」と断ることもできたかもしれませんし、断ったからといって自分の立場を心配しなくてもよかったでしょう。

ほとんどのハラスメントには、パワーが潜んでいることを、特に部下を持つ立場の方は肝に銘じておきましょう。そしてもう一つ。周囲で一緒になってBさんをはやし立てた仲間も、同罪です。

(了)

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