待たれる梅雨

 この場合の「走り」は「初もの、はしりもの」の意味という。「走り梅雨(づゆ)」とは、本格的な梅雨入り前の雨模様を言う、と「雨のことば辞典」(講談社学術文庫)にある。「早梅雨」「迎え梅雨」とも呼ぶらしい▲そろそろかな、と思わせる雨模様ならば、6月に入って幾たびかあった。それでも本県を含む九州北部の梅雨入りはまだ発表されず、平年の6月5日ごろよりも半月ほど遅い▲福岡管区気象台に聞くと、太平洋高気圧が弱いため、梅雨前線が北に押し上げられないという。最も遅い梅雨入りは1967年の6月22日で、ほぼ半世紀も前の記録日が近い▲雨量はかなり少なく、いくらかの走り梅雨は「お湿り程度」だったらしい。本県の観測地点では5月1日からこっち、少ない所で平年の3割台、多くても8割しか降っていない▲田植えの時期に少雨が続けば、影響は少なくない。じめじめして快くないにしても、土を潤し、作物に生気を与える梅雨がそろそろ来ないと困る▲おととし7月の九州北部豪雨、昨年7月の西日本豪雨の時期が近い。恵みの雨も、降り過ぎれば人々に悲嘆をもたらす。先の辞典に「時雨(じう)」という言葉も見つけた。「望むときに適時に降る雨」とある。天は時に非情と知りながら、もう近いはずの梅雨が慈雨であり、時雨でもあれと願う。(徹)

© 株式会社長崎新聞社