広島県坂町の海水浴場「ベイサイドビーチ坂」は、豪雨災害のため通行止めとなった国道31号の迂回路として活用され、交通機能の早期回復に寄与した。今年3月には道路が復旧し、ビーチとしての利用も再開。7月の海開きを前に、賑わい創出と被災地の本格復興を後押しするためのシンポジウムが開催された。
6月1日、会場となったグランドプリンスホテル広島には、ビーチスポーツ愛好家や地域住民など多くの来場があった。湯﨑英彦広島県知事のあいさつに続いて、国土交通省中国地方整備局の喜安和秀副局長が、平成30年7月豪雨の主な被災概要と、ベイサイドビーチ坂の活用による早期復興への貢献についての報告をした。
ベイサイドビーチ坂の年間を通じた賑わいの創出をテーマに行われたパネルディスカッションには、5人のパネリストが登壇。オフシーズンの利用促進を図るための取り組みや環境整備が議題となった。山口県由宇町の潮風公園みなとオアシスゆうを管理運営する有限会社潮風の統括責任者、出雲忠さんは「広島カープの2軍戦に訪れる人や米軍岩国基地の人たちなど、ビーチ周辺への呼びかけが功を奏している」と賑わいづくりのヒントを披露。シドニー五輪4位、北京五輪にも出場したビーチバレーボール元日本代表(NPO法人日本ビーチ文化振興協会 理事)の佐伯美香さんは「ビーチバレーボールは2017年の愛媛国体から正式競技となり、今年から少年の部も行われる」と、プレーの環境が整ってきていることを強調。また、佐伯さん自身が出身地愛媛の企業からの支援を受けて活動していたことに触れ、「地元のサポートがあったからこそ、二度の五輪出場が叶った」と、地域の熱意が不可欠であることも訴えた。
ディスカッションの後半は、ベイサイドビーチの今後の展開についての議論が白熱した。ラグビーやテニスなどバレーボール以外のビーチスポーツ大会や、通常はインドアで行われるヨガ教室などのイベントの開催、JR水尻駅とのアクセス改善、用品の貸し出しができる建物の設置など、さまざまな意見が交わされた。
倉本所長は、「ロケーションを活かし、賑わいを創っていけるように、関係各所と連携してより良い施設を目指したい」と語った。
吉田町長は「ベイサイドビーチ坂は、昨年に続いてビーチバレーボールメキシコ代表の五輪チーム合宿地となっている。思い切った施策で、県内外、世界にも坂の復興を発信していきたい」と締めくくった。
パネルディスカッションに続いて、元バレーボール日本代表の川合俊一さんによるトークショー「復興に向けたビーチスポーツの力」が行われた。日本ビーチバレーボール連盟会長でもある川合さんが、ビーチバレーボールと出会い、その魅力にとりつかれ、日本国内に普及させるまでのさまざまなエピソードを披露。時折笑いを誘う、軽快なトークで聴衆の心をつかんだ。「ロンドンでもリオデジャネイロでも、五輪で最も人気があった競技がビーチバレーボール。チケットが入手しやすい五輪大会は、おそらく東京だけです」と海外での人気の高さを紹介。また、「選手は裸足でプレーするので、コートがあるビーチは必然的にきれいになるんです」と、ビーチスポーツがビーチクリーンアップにつながることにも言及した。
被災地の人たちには「まずは自分たちで一歩踏み出す勇気を出してほしい。そのためには周りのサポートも大切。広島県民が同じ思いで立ち上がったとき、それに応えるのは僕たちの役目だと思っています」とエールを送り、トークショーは幕を閉じた。
広島市内から来場した会社員の内野康希さんは「ビーチスポーツは怪我をしにくく、プレーが楽しそう。スポーツが坂の復興につながれば」と感想を述べた。坂町在住の公務員、藤原ゆかりさんは「ベイサイドビーチを拠点に、豊かさやにぎわいを創出してほしい」と期待感をにじませていた。
いまできること取材班
取材・文 堀行丈治(ぶるぼん企画室)
写真 廣瀬佑太