帰らぬ我が子、せめて 遺族「原因究明を」

◆笹子トンネル事故訴訟、22日判決 「犠牲になった子どもたちのためにも、いい会社に生まれ変わってほしい」。20代の男女5人の命を奪った山梨県の中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故をめぐる訴訟は、22日に横浜地裁で判決が言い渡される。県内に住む2組の遺族は、事故と向き合い続ける決意を胸に、判決に臨む。無念をかみしめ、少しでも前を向けることを願い−。

 あの日、石川友梨さん=当時(28)=と上田達さん=同(27)=は、都内のシェアハウスの仲間たちとの旅行の最中で、帰らぬ人となった。

 前途ある若者たちの命を奪った事故の原因を究明し、再発防止につなげる。そして事故を記録として残す。そのためには、裁判しかない。遺族の意思は強かった。

 事故から5カ月後の2013年5月、損害賠償を求める民事訴訟を提起。ただ、訴訟は苦痛の連続だった。「事故は明らかな人災」。遺族が何度訴えても、トンネルを管理する中日本高速道路側は過失を否定。証人尋問で証言台に立った担当者の口からは、「事故は防げなかった」「点検に問題はない」との弁明が繰り返された。◇ 「どこまで遺族を苦しめるのか」。事故後、中日本の社員と30回を超す面会を続けてきていた友梨さんの両親。悲しみに打ちひしがれ、事故を思い出すだけで感情が乱れる自分を知りながらも、「拒絶だけでは何も生まれない。相手を知らなければ前に進むこともできない」と、月命日の前後に対話を重ねてきた。

 しかし、法廷で目の当たりにする会社側の姿勢に、父信一さん(66)は「丁寧に対応してもらっている面会とは真逆。どちらが本当の姿なのか」と怒りを覚えずにいられなかった。

 それでも、法廷に足を運び続けるのはなぜか。母佳子さん(57)は言う。「私たち遺族が訴えなければ、中日本にとって事故はなかったことにされてしまいそうで。それが一番悔しいんです」。わが子への思いが、2年半におよんだ訴訟の日々を支えた。◇ 横浜市金沢区の上田さんの両親は、一人息子達さんの携帯電話の連絡先を今も消すことができない。「いつか連絡をくれるんじゃないかって」。気持ちは、石川さんの両親も同じだ。街で友梨さんと背格好が似ている人を見つけると、つい目で追ってしまう。「ありえないことだけど、友梨に『どこに行っていたの』って言いたいんですよ」 遺族の集まりで、訴訟での請求額を前に、誰かが口をついた。「これだけのお金があれば、タイムマシンを作って子どもたちを救ってあげられそうなのに」 本当に求めたいのは、わが子を返してもらうこと−。それが果たされないのならば、せめて犠牲となった子どもたちのためにも、会社として誠意のある対応をしてほしい。

 上田さんの父聡さん(63)は話す。「中日本からは、過失責任を認めた上での真の謝罪がほしい。判決は会社の過失を明確に認めてもらいたい」◆笹子トンネル天井板崩落事故 2012年12月2日午前8時ごろ、山梨県の中央自動車道笹子トンネル上り線で天井板のコンクリート板が約140メートルにわたり崩落。トンネル内を走行中の車3台が下敷きになり、男女9人が死亡、女性2人が重軽傷を負った。国土交通省の専門家委員会は13年6月に公表した最終報告書で、天井板をつり下げる金具をボルトでトンネル本体の天井に固定する部分の強度が、施工不良や接着剤分の劣化、換気の風圧などの複合要因によって低下したと結論付けた。遺族の告訴を受けた山梨県警は業務上過失致死容疑で捜査している。

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