若年性認知症を支える(1)「65歳まで働きたい」会社とも協議 個別相談支援の現場

神奈川県内の若年性認知症支援のキーパーソンたち

 65歳未満で認知症を発症する若年性認知症は、仕事、家族、子育てのキーパーソン世代を襲うだけに、本人家族に大きな打撃となる。経済面など多角的な支援が必要となるため、国は、本人家族への個別支援、市町村関係機関のネットワークづくりなどに取り組む「若年性認知症支援コーディネーター」を制度化。神奈川県内では横浜市、県東部、県西部の3地域に、3人のコーディネーターが配置されている。就労、介護から地域生活まで制度横断的なワンストップの個別相談支援は、今後の地域共生社会でのソーシャルワークの在り方を示すものだ。その活動の一端を紹介する。

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 東京都内にある大手企業のビル。若年性認知症支援コーディネーター、村井キヌエさんが単身、同社を訪問した。2017年9月のことだ。同社の社員で若年性認知症を患いながら働いている浅野誠治さん(59)=当時、横浜市、仮名=の就労状況を聞き、今後について相談するためだ。

 浅野さんは病気を抱えながらも、60歳の定年まではもちろん、できれば同僚と同様に定年延長し65歳まで働き続けたいと考えていた。

 会議室には、人事担当者、労務担当者、浅野さんの上司、元上司、同僚、そして産業医、産業保健師がずらりと待ち構えていた。「7人に取り囲まれてびっくりしました」と村井さん。

 会議では、元営業マンだったものの、現在は事務作業を担当している浅野さんの勤務状況などが、上司らから報告された。病状が進んでいることが説明され、通勤途中で迷わないか、安全に通勤できるかが心配だとされた。

 「社員が若年性認知症になったと会社が把握したのは初のケースということで、会社側も対応に悩んでいました」。今後についての浅野さんの希望を会社側に伝え、善処を求めたところ、会社側は、これから検討すると回答した。「産業医は若年性認知症のことを理解していたのですが、産業保健師は全く知識がなかったので、冊子を渡して説明し、サポートをお願いしました」という。

 そして1カ月後、今度は浅野さん夫妻と一緒に会社側との話し合いに臨んだ。

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 若年性認知症支援コーディネーターは、国の「新オレンジプラン」(認知症施策推進総合戦略、15年策定)に基づき、16年度から全国で配置が進められた。設置主体は都道府県・政令市。県内では県が17年度に県内を2分して2人を配置、18年度には横浜市が同市分で1人を配置し、3人体制になった。

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