若年性認知症を支える(3)就労継続、厳しい現実 無視される本人の可能性

今後の活動について相談する若年性認知症支援コーディネーターの(左から)古屋富士子さんと村井キヌエさん

 大手企業に勤めていた浅野誠治さん(61)=横浜市、仮名=は、軽度認知障害(MCI)の診断後も職場のサポートを受け、約2年、60歳の定年まで勤めることができた。しかし、こうしたケースは決して多くはない。

 「企業によっては、ミスを理由にすぐ解雇というケースさえあります」と、横浜市担当の若年性認知症支援コーディネーター村井キヌエさんは厳しい現実を語る。

 山田清さん(66)=横浜市、仮名=は今も、以前勤めていた企業の対応を思い出し、悔しさと憤りに襲われる。

 横浜市内のマンションの管理人として働いていた山田さんは2016年、64歳の時にアルツハイマー型の若年性認知症と診断された。主治医の勧めもあり、抗認知症薬を飲みながら仕事を続けることにした。上司にも知らせた。元大手銀行員だった山田さんは、その真面目さからマンション内のトラブル対応も引き受け、住民から頼りにされていた。診断後も仕事はしっかりこなしていると自負していた。

 ところが、翌17年、仕事でミスをしてしまう。本社からやってきた人事部担当者は開口一番、「抗認知症薬を飲んでいるような人を雇っていたなんて驚きました」と言い、自己都合退職するよう迫った。

 ミスをした負い目と担当者のけんまくに、山田さんはその場で、用意された退職届にサインしてしまった。

 退職後、時間が経つにつれて山田さんの憤りは大きくなっていった。ミスが懲戒解雇に当たるかどうかの説明はなかった。認知症ということで人格を全否定するような一方的な物言いに、1人の人間として、プライドを大きく傷つけられた。

 また、本来は会社都合退職ではないかという疑問も残った。会社都合なら失業保険の受給期間も長くなり、経済的にも違いが出る。しかし、「2人で1カ月悩んだ後、あきらめることにしました」と、妻の恵子さん=仮名。

 山田さん夫妻が、若年性認知症支援コーディネーターの存在を知ったのはその後だった。主治医から村井さんを紹介された。さまざまな制度の利用や就労支援について村井さんから説明を受け、恵子さんは「もっと早く会っていれば。退職時にいてくれたら」と絶句した。

 山田さんは現在、マンション清掃の仕事を見つけ、週3日、元気に働いている。「汚れに気が付けば、担当範囲を超えてきれいにしています。村井さんも応援してくれているので、働けるところまで働き続けます」と力強く語る。

 懸命に働く夫の姿に恵子さんは「認知症イコール徘徊(はいかい)、何もできない、というのは違います。認知症への社会の理解が必要です」と訴えた。

 若年性認知症を含め、認知症の症状、進行は人さまざまだ。企業側の適切な支援があれば働き続けられる人もいる。「職場の負担が大きい場合は、障害者枠で雇用する方法もあります。企業に理解を求め、アドバイスもしていきたい」と村井さんは語る。

 ◆発症後の就労継続 認知症介護研究・研修大府センター(愛知県)が行った「若年性認知症者の生活実態及び効果的な支援方法に関する調査研究事業報告書」(2014年度)によると、発症時に就労していた221人の調査時の仕事の状況は、「退職した」が66.1%に達し、「解雇された」が7.7%もあった。

 次いで、「休職・休業中」が4.5%、「転職した」が2.3%、「発症前と同じ職場で働いている」が1.8%、「発症前と同じ職場だが、部署が変更になった」が0.9%、「仕事は辞めたが、地域でボランティアなどをしている」が0.9%。働き続けていたのは、計5.0%に過ぎず、就労の厳しい実態が浮き彫りになった。

 また、発症時の職場の対応では、「配慮はなかった」が19.5%、「職場内での配置転換などの配慮があった」は12.7%、「労働時間の短縮などの配慮があった」が4.5%などだった。

© 株式会社神奈川新聞社