「君たちはどう働くのか?」と問う採用   老舗手袋メーカー「スワニー」 責任者は26歳女性

インタビューに応じる上田芙美さん=6月5日、香川県東かがわ市のスワニー 本社

 今年の就活も終盤に差し掛かっている。すでに内定をもらった人もいるだろう。でも就活中、企業の採用担当からこんなことを言われた人はいるだろうか。

 「就職活動はただの会社選びじゃない。自分自身がどう生きたいのか? 何を大切にし、誰といたいのか? 自分のなりたい姿やありたい姿を描くことをしなければ、本当にやりたい仕事は見つからない」―。香川県東かがわ市の老舗手袋メーカー「スワニー」が進める、「どう働くか?」と問いかける採用だ。

 ▽役員面接で初めて履歴書を提出

スワニーが今年の採用活動で使った画像

 スワニーの採用担当リーダーは、入社3年目の上田芙美(うえだ・ふみ)さん(26)。2019年度の採用は、約80人の中から男女1人ずつを内定した。スワニーは、最終の4次選考に当たる役員面接で初めて履歴書の提出を求める。それまでは経歴不問。その理由を、上田さんは「就活は受験じゃない。成績順に採るわけではない。会社との相性が大切だから」と話す。

 上田さんは香川県三豊市出身。広島大の大学院で実験心理学を専攻した。同級生の多くは都会の大企業に働き口を求めたが、自身は「就職するタイミングで同郷の恋人と結婚したくて」香川県の企業ばかり約10社の採用試験を受ける。スワニーを選んだ決め手は「明るい社風と、上司が仕事を任せてくれそうな雰囲気だった」。

 ▽平等に見ることと、不安を取り除くこと

 スワニーは1937年創業。3代目社長の板野司(いたの・つかさ)さん(56)は、上田さんを選んだ理由をこう語る。「昨今の採用は、魅力的なホームページを作り、ツイッターで発信するなどデジタルの活用が大切で、20代の人が適任と感じていた。上田はコミュニケーション能力も高く、学生への伝達力もあると考えた」。そして採用リーダー就任を打診したのが昨秋のことだった。

 上田さんは「正直、嫌でした。最初は断りました」。だが板野さんからの説得と「スキルアップにつながる」との言葉に応じ、20~40代の部下4人を率いる立場となった。この春、高松市や大阪市で開いた合同就職説明会では、集まった大学生に入社3年目の自分がリーダーだと告げると、物珍しさから他の企業の採用担当者が人だかりをつくった。

 リーダーとして心がけたのは「男女を平等に見ることと、学生さんの不安を取り除くこと」。外国人や性的少数者でも条件さえ満たしていれば公平に採る方針で臨んだ。人手不足を背景に学生の売り手市場と言われて久しい。「メーカーは人気業種ではない。ましてや地方の会社」という状況で人材獲得競争は後手に回るかと思いきや、「うちに合う子が採れた」と胸を張る。

インタビューに応じる板野司さん

 ▽大事なのはマッチング

 上田さんは会社の内部をとことん見せることにこだわる。働き始めた後に生じる理想と現実のギャップを取り除くためだ。3次選考では営業担当者と一緒に実際の商品を使ってプレゼンさせた。休憩時間は将来に不安を抱える学生の相談にも乗り、結果的にスワニーを選ばなかった人に対しても就活が終わるまで支えている。別の会社に行くことになった学生からは「一番行きたかった会社から内定をもらえました」と感謝する手紙が届いたという。

 板野さんは「2000年代半ばは新卒で採用した4人をすぐ中国の工場に送っていた」と振り返る。「あえて重圧のかかる環境を与えて1人でも残ればいい」という考え方だった。ただ、その手法では、繊細な企画や顧客に寄り添うサービスはできないと気付く。

 最近の採用は「学生と会社とのマッチングを重視している」という。互いを尊重する結婚のような形が理想だ。内定辞退者は目に見えて減った。「スワニーと縁がなくなった子も、当社の試験に参加して良かったと思ってくれる」。そんな選考を目指している。(共同通信=浜谷栄彦)

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