小島大河(仮名、裁判当時21歳)は高校中退後、キャバクラ従業員などの職業を転々としていて裁判時は無職でした。父、祖母、交際相手と同居していて、少年時にバイク窃盗など2度の非行歴があります。
彼が起訴されていた罪名は「大麻取締法違反」でした。
「以前、外人が吸ってる動画を観て興味を持ちました。ツイッターで検索して売人と連絡を取って購入しました」
という経緯で彼は大麻を吸うようになりました。
「友達や彼女とケンカをした時とか、自分の主張が通らない時とか、ストレスが溜まった時に吸ってました。やってる時は楽しかったです」
と使用感について話しています。
逮捕のきっかけは職務質問でした。
「単車の騒音がうるさい」
と警察に苦情が入り、警官が現場に行くと彼含め数名の若い男性が騒いでいるのを発見しました。そこで職務質問が始まり、彼の小銭入れの中から大麻が見つかって現行犯逮捕となったのです。
元々が興味本位で始めた大麻です。あまり深く考えてはいないようでした。
「大麻の害についてはあんまり気にしてませんでした。何て言うんですか…肺とか脳とか? に害があるのは知ってました。やめられなくなることがあるのも知ってました」
それでも裁判では今後大麻をやめることを誓っていました。彼にはやめなければならない事情もあります。
「今一緒に住んでる彼女が妊娠してることがわかりました。『悪いことしたらダメ』と教える立場です。もう同じことは絶対にしません。もうやめます」
産まれてくる子供のためにやめる、そう誓う彼は今後大麻を本当にやめられるのでしょうか? 裁判官はその決意の真偽を問い質していました。
――大麻でも他の薬物でも、繰り返しやって刑務所に行く人がいます。どういう人が繰り返すかわかりますか?
「…ちょっとわからないです」
――そういう人の中には家族がいる人もいます。あなたと同じようにかわいい子供と生活していたり、親を支えなければいけない責任を持っている人でも捕まる人はいます。何でだと思う?
「そこが麻薬の怖さだと思います」
――そこまでわかってるならあなたの言ってる『もうやめる』が非常に危ういのはわかりますよね? 具体的にどうやってやめるの?
「大切な人たちの信頼に応えたいです。人を裏切りたくない、そんな強い決意です」
――じゃあ家族がいながら刑務所に行くような人はあなたと同じような決意はなかったんですか?
「あったと思いますけど…弱かったと思います。でも僕は本気で思ってます」
――本気じゃない人が繰り返すわけじゃない。残念だけど、薬物の力は自分の中から正しい気持ちが出てくるのを止めてしまう。『使いたい』と思った時、人は家族や大切な人のことを忘れます。私はそんな人を何度も法廷で見てきました。みんな、あなたと同じように、いやひょっとしたらあなた以上に本気でやめようとしてたと思います。それでもやめられなかった。自分の気持ちを強く持つのもいいけど他にも何か考えた方がいい。本当にやめるためにどうするか、ずっと考え続けてくださいね。
ここ最近は芸能人など社会的に影響力のある人の薬物犯罪が立て続けに報道されました。
そんな報道があるたびに、「コカインなんてただのパーティードラッグ」「覚醒剤は用法用量を守れば大丈夫」などと事件を矮小化して語る人が出てきます。大麻は特にそのように言われます。
若い被告人の中にはそんな言葉に影響されて違法薬物に手を出した、と話す者もとても多いです。
違法薬物を始めるきっかけはだいたいが興味本位です。そんな軽い気持ちで始めた違法薬物がいつの間にかどうしてもやめることが出来なくなってしまい何度も服役を繰りかえす、そんな人は珍しくありません。違法薬物の裁判は毎日のようにあります。
違法薬物事件は『被害者のいない犯罪』と言われることもありますが間違いなく被害者はいます。被害者はクスリで人生を壊された使用者本人です。(取材・文◎鈴木孔明)