新・湯治

 漂泊の俳人、種田山頭火は数多くの温泉地にも足を運んだ。本県の小浜温泉には「さびしくなれば湯がわいてゐる」と刻まれた句碑もある▲幾多の苦難に遭い西日本を中心に放浪した身に、温泉はまさしく癒やしの場だったに違いない。熊本県の温泉では「一生動きたくないのだが」とまで日記に記した▲温泉の効能は古くから知られてきたが、環境省は昨年から多忙な現代のライフスタイルに合わせた温泉地の過ごし方を「新・湯治」として提唱し始めた。入浴に加え、周辺の自然や歴史・文化、食などに積極的に触れるような体験プログラムを楽しみ、地域の人らとふれあい、心身ともに元気になることを目指す▲訪日外国人の増加などを背景に、温泉の魅力を再評価し情報発信しようとの狙いだ。そのため温泉地全体の療養効果を科学的に把握することも重視されている▲全国20カ所の温泉地などで実施した同省の調査では、日帰り客の78.6%が「憂鬱(ゆううつ)な気分が少なくなった」と回答。温泉地を頻繁に訪れる人ほど滞在後に「より健康になった」と感じる割合が多かったという▲長逗留(とうりゅう)ができなくても、短時間でも、少なくとも気分の上では効果ありということだろう。働き方と休み方の改革が問われている今、改めて温泉の楽しみ方を考えてみるのもいい。(久)

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