川崎市多摩区の登戸駅近くの路上で、スクールバスを待っていた私立カリタス小学校(同区)の児童と保護者20人が殺傷された事件は、28日で発生から1カ月となった。同校では追悼ミサが営まれ、児童らが祈りをささげた。児童の心のケアや通学路の安全確保など事件が残した課題は少なくないものの、日常を少しずつ取り戻すための歩みが続く。
祭壇はヒマワリやユリで明るく飾られていた。ささげられたのはパン、ぶどう酒、そして思いを寄せたカード。花の香りに包まれ、写真には優しげなほほ笑みが浮かぶ。不意に奪われた二つの命。鎮魂の祈りを込めた歌声が会場に響いた。
同校を運営する学校法人カリタス学園によると、約1時間にわたって営まれた追悼ミサには、全校児童と保護者約千人が列席した。すすり泣く声も漏れる中、内藤貞子校長は式典の最後にこう決意を述べたという。「悲しい出来事だが、毎日を精いっぱい生きている子どもたちと前を向いて歩いていきたい」
学園によると、入院中の児童も含め、登校を再開できない児童が数人いるという。全校児童を対象とした個別面談で、カウンセラーに「夜、夢を見る」「後ろから人が来る気がする」などと訴える児童もいるという。
「表面は落ち着いているように見えても、まだ心理的には傷があって、埋めるにはしばらく時間がかかるのではないか」。学園の高松広明事務局長は、小さな心をえぐった傷の大きさを懸念する。
発生直後から現場に寄せられていた献花はその数を減らしたが、1カ月が経過したこの日も発生時刻の午前7時40分に合わせ、花を手向ける人の姿があった。
「これから楽しいことがいっぱいあっただろうに、なんでこういう事件が起きるのか理解できない」。同市中原区の男性会社員(56)は3度目の献花という。
一方、事件を教訓として見守り活動も強化されている。この日から毎月28日に実施する「多摩区子ども見守りの日」が始動。多摩署員40人をはじめ、防犯団体などが区内全15小学校の通学路で児童の登下校を見守った。
多摩防犯協会の末吉一夫会長は「日頃から活動を継続していくことが大事。悲惨な事件を二度と起こさないため、学校や父母の方にも多く出ていただき、抑止につなげていきたい」と話した。
事件では、同校の6年生の女児=当時(11)=と保護者の外務省職員の男性=当時(39)=が死亡、18人が重軽傷を負った。襲撃したとされる岩崎隆一容疑者=当時(51)=は現場で自殺した。