若年性認知症を支える(6)患者の子は「ヤングケアラー」 苦悩に寄り添う

介護の悩みを語り合った「若年性認知症の親を持つヤングケアラーの会」=横須賀市

 「父は母の認知症のことを受け入れられず、親戚にも近所にも話そうとしない。母に怒鳴ることもある」

 「母は高齢者ばかりのデイサービスには行きたがらない。母に合うデイサービスがなく、これからどうしたらよいのか分からない」

 「認知症で変わってしまった父を見るのがつらく、実家に行こうとすると身体が震える」

 「同世代の友人に親の介護の話をしても理解してもらえず、気まずくなってしまう。同世代の友人とは介護の話はしない」

 神奈川県横須賀市内で4月、若年性認知症の親を介護している子どもたちの集まり「若年性認知症の親を持つヤングケアラーの会」の第1回が開かれた。

 参加したのは、主婦や会社員の20~30代の女性6人。横浜、横須賀、藤沢市などから集まった。症状が進む親への思い、介護方法に関する親との意見対立、自身の介護負担、友人関係などについて、時には涙を流しながら、抱えている思い、悩みを語り合った。

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 神奈川県内では、がんなどの病気や認知症の親を持つ若者の集まり「ヤングケアラーの会」がすでに開かれているが、若年性認知症の親を介護している人に限定した会はこれが初めて。会には、久里浜医療センター副院長で認知症疾患医療センター長の松下幸生さん、県東部担当の若年性認知症支援コーディネーター古屋富士子さんも同席。若年性認知症の医療介護についての質問に答え、解説やアドバイスも行った。

 「若年性認知症の母が頻繁に洗濯をするようになり、父がそれをとがめている」という話に松下さんは、「できることを評価してあげることが大切だと、お父さんには伝えてほしい」とアドバイス。現在の能力を使い、必死に何かに取り組んでいる若年性認知症の人を、温かい目で見守るよう訴えた。また、家族が認知症になったことを受容するには一定の時間がかかってしまうことも指摘した。

 会が終わると、6人はさっそくメールアドレスや電話番号を交換、これから連絡を取り合っていくことを確認していた。参加者の一人は、「介護の話ができる仲間ができるのはありがたい。会場や日時を多くの人が参加しやすいようにして、今後も会を開いてほしい」と笑顔を見せていた。

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 会を企画したのは古屋さん。2018年のコーディネーター就任後、若年性認知症の人の子どもたちから「若年性認知症になった母の介護を父がしているが、認知症への父の理解が足りず、対応を変えさせたい」「親の介護をめぐって兄弟姉妹の考えが食い違い困ってしまった」などの相談が相次いだ。「子どもたちの悩みは大きいと感じました」と古屋さんは言う。

 若年性認知症の場合、その子どもたちの年齢も低く、経済面も含め独特な問題を生じる。進学や就職など、人生の計画を大きく変更せざるを得ない場合もある。

 また、進学、就職後も、同世代の友人たちとは懸け離れた生活になることもある。そうした若い介護者の心の負担を少しでも減らすため、同じ立場の若い介護者が悩みを語り合う場をつくろうと考えたという。

 会は年に数回開催。広報活動を通じて1人で悩んでいるヤングケアラーを掘り起こしたいという。会を契機に知り合いになれば、その後は、自主的に交流が続いていくことを期待している。「会には専門職を呼んで、若年性認知症と関係する制度などについて、ヤングケアラーに知識を深めてもらう機会にもしたい」。古屋さんが抱負を語った。

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