以前にキャバクラ店従業員として働いていた手島智宏(仮名、裁判当時22歳)は、婚約者の妊娠をきっかけにキャバクラを辞め昼の仕事に就くために就職活動をしていました。しかしなかなか就職先は見つからず、「昼の仕事が見つかるまでのつなぎ」として池袋のキャバクラ店『キャロットキャロット』で勤めはじめました。
婚約者や婚約者の父は、
「普通の飲食店だと思ってました」
と供述していましたが、実際にはここはいわゆるぼったくり店で客に対して法外な料金を請求する悪質な店でした。
「家族には仕事の内容を知られたくなくて言ってなかった」そうです。
ある日、この店に意識を失った男性、北川(仮名)が連れ込まれてきました。
北川はキャッチに勧誘されて赤坂にある系列のぼったくり店『セレーネ』に入店、飲食をしましたが法外な代金を請求されて支払いを拒み、店員に暴行を受けていました。入店前から泥酔していた北川は酒と暴行の影響で意識を失ってしまっていました。
「救急車を呼んだら警察沙汰になるかもしれない」
ということでとりあえず『キャロットキャロット』に運ばれてきたのです。
『セレーヌ』の店員は、
「殴ってケガをさせていたのでこのまま帰す訳にはいかないと思いました。場所を移動して被害者のクレジットカードを使って遠くの別の店で呑んで『他の店でも呑んでた』ということにすればうやむやになると思っていました」
と供述しています。
「ケガしてるからこのまま帰せない。手伝ってほしい。アト付けに行こう」
『セレーネ』の人間からそう声をかけられ、新人で年齢も一番下だった手島は断ることが出来ませんでした。
「アト付け」とはクレジットカードの履歴を付けることだそうです。このような符丁があることを考えると、発覚してこなかっただけで同じような出来事は過去にも何度もあったのかもしれません。
手島は他3名の共犯者と共に被害者を車に乗せ、近くのキャバクラ店へ移動しました。この車に乗せた行為を手伝ったことで手島も監禁罪で起訴されました。
4名は被害者のクレジットカードを切って飲食した後、まだ意識が戻っていない被害者を車から降ろして公園に放置し、その場を跡にしました。
「店の中で立場が一番下、それでも関与してしまったことは間違いないですよね。どこの時点でどうすればよかったと思いますか?」
という裁判官の質問に対して手島は、
「根本的には、こんな店で働かなければよかったです。救急車を呼ぶことを提案したりすればよかったと思います。周りが応じなくても自分で行動を起こすべきでした。少なくとも一緒に車に乗るべきじゃなかったです」
と答えています。
そのどれも出来なかった彼は逮捕、勾留されることになりました。勾留中に婚約者は子供を出産しました。裁判の時点では彼はまだ一度も子供に会っていないそうです。
論告で検察官は、
「意識のない被害者を『帰宅させたらぼったくりや暴行が露見する』という身勝手な理由で治療を受ける機会すら与えず監禁したという犯行態様は、被告人があくまで従属的な立場であったということを鑑みても非常に悪質と言わざるを得ない」
と厳しく追及し、懲役1年を求刑しました。
婚約者の父親は、
「きちんと反省して、子供もできたんだし父親としての責任と自覚を持ってちゃんと社会のルールを守って生きてほしい」
と話しています。
手島は少年時に母と死別し、父親とは音信不通になっています。それでも「今後は自分が父親代わりになって監督していく」と婚約者の父親が言ってくれています。そして自身も父親になりました。
最終陳述で話していた、
「今後はちゃんとした昼の仕事を見つけて、まっとうに生きていきます。もう二度と犯罪には手を染めません」
という言葉が守れるかどうか、それは婚約者の父親が言っていた「父親としての責任と自覚」次第なのだと思います。(取材・文◎鈴木孔明)