憧れの聖地を目指し、2019年夏のグラウンドにも母校や仲間、家族の思いを背負ったエースやキャプテンら、181校の選手たちの汗と涙がしみこんでいく。令和元年の新時代に、注目の夏男たちはどんな夢の物語を描くのか-。
◆甲子園で結果を
その名を全国にとどろかせることになった1年夏の甲子園からもう2年がたつ。
最速153キロを誇る横浜・及川雅貴は、神奈川球史に名を刻もうとする名門の背番号1を託された。目指すのは、101回を数える大会史で、柴田勲らがいた法政二、原辰徳を生んだ東海大相模と、過去わずか2校しか到達できていない神奈川の夏“4連覇”だ。
「高校野球をやるからには、夏の甲子園は誰もが目指す場所。難しいことは重々承知しているけれど、自分は甲子園で結果を残せていない。やっぱり、またプレーしたい」。松坂大輔(中日)らを擁して遂げた1998年以来となる夏の頂点だけを見詰める。左腕にとってこの夏は、高校時代最後の名誉挽回のチャンスとも言える。
◆センバツの記憶
「悔しいというよりもチームメートに申し訳なくて」。今も及川の脳裏から離れない苦い記憶がある。
センバツ大会初戦となった3月24日の明豊戦。大観衆の前で満を持して先発した「高校ビッグ4」は、全くらしさを発揮できなかった。三回途中で5安打2四球、5失点でマウンドを譲った。左打者の内角を突けず、外のスライダーを狙い打たれて試合を壊し、5-13の大敗を招いてしまった。
「甘く入るのが怖くて、(投球時に)ボールをひっかいてしまった。いろんな部分で実力通りだし、プレッシャーに押しつぶされた」
三回途中5失点で降板した昨秋の関東大会準々決勝に続く、ふがいない投球はチームにも尾を引いた。キャプテンの内海貴斗は「関東大会に続いて2回目。最初は『誰が悪い』とかそういう話になったのも事実」と、どん底まで沈んだチーム状況を明かした。
◆制球力磨く日々
センバツ直後の春季県大会ではエース番号を剥奪され、下級生の松本隆之介や木下幹也に先発マウンドも奪われた。敗れた準決勝の桐光学園戦でようやく大事な場面での出番が与えられ、2回というショートイニングから出直した。
5、6月と課題の制球力を磨く日々を送ってきた。金子雅部長(42)と二人三脚でフォーム改造にも着手。テークバックをよりコンパクトに、リリースポイントも左耳の先から出すようなイメージを描く。
連日のようにブルペンへ入り、ホームベースの内外角に立てた鉄棒を目がけて全力で腕を振る。「当てるには技術も必要だし、精神面も鍛えられている」。ダイナミックなフォームは少しだけ影を潜めたが、スピンが効いたボールと安定したフォームには確かな手応えを感じている。
◆力証明する夏に
千葉で育った中学時代は、U-15日本代表でワールドカップ準優勝に貢献。2017年春、「甲子園もプロも両方目指す」と意気込んで名門に入学した。
小さくまとまらないように成長を促し、幾度となくチャンスを与えてきた平田徹監督(36)は「甲子園では力を発揮できないところが目立ったが、彼自身はこつこつ良くなっている。人間性の部分で何とかしてやりたいと思わせてくれる」と、夏は再び背番号1を託すことを決断した。
「自分はまだ何も成し遂げていない。投げるからにはチームを勝たせる投球が一番。得点を取られなければ、負けることはない」
ここまで決して順風ではなかった。でも遠回りしたからこそ、歩んできた道がはっきりと見えている。「本当にいろいろありましたね。この一年は悔しい思いの方が多い。その思いを最後の大会にぶつけたい」。名門のエースが圧倒的な力を証明し、ナンバーワン左腕の称号を必ず取り戻す。
◆およかわ・まさき 投手。3年。182センチ、75キロ。左投げ左打ち。千葉・八日市場二中(匝瑳シニア)出身。
【Thank You】
仲間のため 最後は勝つ
迷うことはなかった。右手でサインペンを走らせ、「仲間」と力強く書き記した。
「さんざん、チームメートには迷惑を掛けた。最後は絶対に勝たせられるように投げたい」。帽子のつばに、その2文字を書き入れはしないが、センバツの屈辱を忘れることができないサウスポーはその言葉を胸に、勝負のマウンドに向かう。
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この夏、誰のためにグラウンドに立ちたいですか? 注目の夏男たちに聞いていく。