人生相談は往々にして回答よりも相談のほうが面白い。相談者が切羽詰まっているからだ。傍から見れば取るに足らない悩みでも、事態に窮した当人の打ち明け話はリアルで人間味にあふれている。
本書は全国紙の人生相談欄に掲載された35の問答、文芸誌の連載コラム19本からなる。一つひとつの相談の下世話ぶりに思わず引き込まれる。
「パソコンを覚えない上司が腹立たしい」
「割り勘なのに食べ放題のボランティア仲間に困っている」
「一日中エッチな画像を見る父にイライラする」
短い相談文に人間の煩悩とモラルのせめぎあいが凝縮されている。「だろうねぇ」と激しく共感する内容もあれば、「見逃してやれ」と諭したくなるものもある。
回答がまた味わい深い。普通の回答は相談者を視界の開けた場所に導いて大所高所から悩みを相対化するのだが、著者はむしろ隅っこのほうに連れて行き、視点を妙な方向にずらしてみせる。
「(上司を)文字を使えない縄文人だと思ってあきらめたほうがよいでしょう」
「ご主人のことを人間ではなく、『番犬』だと思って接してみてはいかがでしょうか」
「不満を募らせるより弱音を吐いたほうがよいと思います」
問答に続くコラムでは古今東西の賢人の知見を引きながら、「友達」「外見」「結婚」など悩みの元に貼り付いた常識をつつき回している。
著者の回答で悩みが解決したのかどうか。気にする必要はない。人生相談は語られ、回答されたことで完結しているからだ。
(文藝春秋 1700円+税)=片岡義博