吉村卓(AV男優)&『吉村卓を盛り上げ隊』団長 - 日本のAVを世界へ

結成の理由はただ恩返ししたいという気持ちだけ

──吉村さんはライブハウスに来られたりしますか?

吉村:最近はイベントに出演する方が多いですが、僕は氷室京介さんファンなのでライブには行きますよ。このTシャツも氷室です。

──あっ、本当だ!

吉村:(6月RooftopのBOØWYやPERSONSのページをめくりながら)BOØWYの古参ファンなので新宿LOFTは聖地ですが、その頃の僕は埼玉の高校生だったので怖くて行けませんでした。

──意外な音楽話しをお聞きできて嬉しいです!

吉村:こういった文化系の雑誌にAV男優としてインタビューが載るんですね。

──女優さんではなく男優さんが載るのはあんまり無かったかと思います。ほとんど初めてじゃないですかね? 男優として『盛り上げ隊』が結成されてここまで盛り上がるっていうのも面白いなと思うのですが、まずは結成についてお聞きしたいと思います。

吉村:そこは団長にお話ししてもらいましょう。

団長:メインじゃないのにすみません…。以前、僕が働きすぎて鬱病になってしまったときに卓さんにいろいろとお世話になったんです。イベントに呼んでいただいたり、誕生日に一人でいたときに連絡をしたらパーティーをしてくれたり…。恩返しをしたいというのはずっと思っていて。僕はAVを売る仕事をしていたので、AV男優さんの情報を紹介するブログを運営しているのですが、そちらで収益が上がり始めていたので、それをファンの方に還元したいなとも思っていました。それで日本プロダクション協会(日本のAVプロダクションをまとめている業界団体)の監事を務めている友人に相談したら、その方が作家さんだったこともあって企画にも関わってくれて、『たくもり(吉村卓を盛り上げ隊)』の話しが進みました。あとは、めちゃくちゃAVに詳しい一般人の知り合いを聞き手として呼んだら面白くなったので、このメンバーで盛り上げ隊を結成したんです。結成の理由は僕がただ恩返ししたいという気持ちだけで、そこに有能な仲間が共感して協力してくれてすごいイベントになっていきました。

吉村:本当に、企画を全部やってくれて、僕はサプライズ的にやります! って言われたような立場だったんですよ。

団長:最近は現場でも卓さんにあれこれお願いすることも増えてきてしまったので、今後は一緒に企画も考えながら楽しくやっていこうかなと思っています。

だったら俺に全部考えさせろ! って思うことも

──若者の性経験の少なさが話題になったりもしました。

吉村:不景気な時代に生まれた世代の欲が少ないのは仕方がないですよね。映像を購入するのは40代50代のおじさん世代なんです。だから僕ら世代の男優って結構需要があって忙しいんですよね。そして人間50歳過ぎたら病気になってきてAVどころじゃなくなるので、そこからAV業界はガラッと変わるんだと思います。

──ご自身は、いつまでやろうっていうのはお考えになったりするんですか?

吉村:あまり考えていませんが、長く続けるぞ! とは思っていませんよ。BOØWYも絶頂期で解散しましたし!

団長:そういう意味で、卓さんのセカンドロールを広げていくというのも『たくもり』の役割だと思っています。男優を引退したあとの可能性を、他の男優さんにも示せればと思います。

──今、吉村さんはどれくらいのお仕事をされているんですか?

吉村:月に20現場くらいですね。今年になって増えています。

──すごい! 盛り上がってますね!

吉村:まあ、さっきも言ったようにおじさん需要はあるので…。AVって、変態が普段は見られないことをやっているのが面白いとされている部分もあって、僕もそういう男優像を目指していました。若い頃はやっぱり加藤鷹みたいなイケメン系が人気だったんですけど、この年齢になってからは僕らみたいな男優の方にもフォーカスが当てられるようになってきたのかもしれません。

──現場の雰囲気が変わってきたりもしているんでしょうか?

吉村:まあ昔の方が面白い人が多かったかなと思います。良い意味では今の方が健全化しているんですよね。昔は女優にちょっかいを出すプロデューサーとかが普通にいて。今はそういうのはなくなったんですが、逆にプロデューサーや監督で、「自ら教えられる」という人はいなくなってきちゃいましたね。現場にも監視カメラがついていて、変なことはできないようになっているんですよ。

──女優として“働く”という意味では安心ですが、何かのバグで面白いものが生まれるという要素やクリエイティブ性は減ってしまいますね。

吉村:女優男優の個性よりも、台本通りに演じることが重要視されます。現場にいるオトナたちも、エロを追求する現場を知らない人が多くて、よくわかんないまま指示を出して、それを言われるがままにやるしかない現場ってなると、そりゃ面白いものは生まれないし売れないよって思います。もう、だったら俺に全部考えさせろ! って思うこともあります。

──吉村さんが監督をやるっていうのはないんですか?

吉村:僕はやっぱりプレイヤーのまま終わりたいっていう美学がありますね! 周りには監督もやり始めている方はいるので、そういう人に頑張ってもらいたいです。

団長:僕の知り合いで、大手保険会社の役職についているまともなサラリーマンがめちゃくちゃ変態なシナリオを書いてきたことがあって、でも真面目な人ほど変態っていうことは多い気がするんですよ。そういった常識と非常識を併せ持った業界でいてほしいと思います。

日本のAVを見ているアジア圏の人は吉村卓と青春を過ごしてきている

吉村:あと注目していただきたいのが、「東京ポーンダンス」です!

──イベントでもお話しされていましたね!

吉村:今「Tokyo Bon 東京盆踊り2020」という動画が世界的に有名になっていて、その作者のNameweeさんという方が日本のAVが大好きなんだそうです。それで僕を紹介してほしいとお願いしてくれているみたいで、だったらAV女優や男優がダンスを踊る「東京ポーンダンス(Porn Dance=ポルノダンス)」を、「東京ボンダンス(Bon Dance)」のアダルトバージョンとして作ろうじゃないかっていうのが目標なんです。

──世界へ向けての目標ですね!

吉村:アジア地域では日本のAVファンは多いんですよ。

──女優さんの知名度は確かに高いような気がするんですが、男優さんはどうなんですか?

団長:トニー大木さんという男優さんが今、中華圏で大人気なんですが、お話しを聞くとやっぱり女優さんの方が人気は高いけれど、それでもトニーさんのweiboでのフォロワーは175万人以上ということでした。ただトニーさんいわく、自分はたまたま中国進出をしたから知名度が上がったけれど、吉村さんはそういうレベルじゃなくて、日本のAVを見ているアジア圏の人は、名前を知らずとも吉村卓と青春を過ごしてきているんだっていうことをおっしゃっていました。

──必ず吉村さんが出ているということですね。顔を見たら知ってる! となる…。

吉村:香港だったと思うんですが、80年代の日本のAVというジャンルが大学の学科として存在しているそうです。

──そうなんですか! 文化として研究されるほどに評価されているんですね。

吉村:その辺りの作品を見て育った海外の世代が、今そうやって日本で本格的に学ぼうとしているみたいです。知り合いのところにはアルゼンチンから学生が来ているそうですよ。僕らの知らないところで日本のAVにみんな興味を持っているんですよね。

──アニメ産業と似た構造だと思いました。アニメも今や国を挙げた産業となっていますが、なかなか価値を認められず、ここ数年で急激に評価されるようになりましたよね。

団長:これだけ産業的にも大きくて、みんなお世話になっているにも関わらず、日本国内だとまだ蓋をしないといけないものとして扱われているじゃないですか。でも実際にはアジア各国でこっそりと、だけどこれだけ見られていて、アンダーグランドカルチャーとしてAV男優やAV女優は日本とはまた違った形でリスペクトされているんです。だから僕は卓さんを通じて日本のAV業界を世界へ発信して、日本での立ち位置ももっと上げていきたいと思っています。今のAVの立場の低さを考えると、見る側も「無料で見ればいいや」となってしまいますし、それではどんどん衰退していく一方なのでそこをなんとか上げていきたいです。

──吉村さんを通じて業界を世界へ向けて盛り上げていくということですね! 今後も活動が楽しみです!

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