明らかにMとは違う世界観。アルピナ スーパーディーゼルモデルを乗り比べる|アルピナD3&D4試乗

アルピナ

スーパースポーツディーゼルと銘打ったアルピナ

BMWをベースにコンプリートモデルを製造する、ドイツで一番小さな自動車メーカー「アルピナ社」。BMWオーナーでなくとも、クルマ好きならその名を耳にしたことがあるはずだ。

派手さは全くないが、普通のBMWとは“何かが違う”と感じさせる不思議な佇まい。

アルピナ

ボディサイドに描かれたシンプルなストライプ(アルピナ・デコセット)と、テールエンドのモデルナンバー、そして20本スポークの特徴的なホイールだけがその存在を静かに己の存在を主張する、極めてアンダーステイトメントなブランドである。

そんなアルピナを日本へ輸入するニコル・オートモービルズが、今年で40周年を迎え、我々メディアに試乗会を開いてくれた。世田谷ショールームを起点に山中湖のリゾートを経由し、富士スピードウェイでその実力を確かめて帰路につくという、アルピナの魅力を伝えるに相応しいゆったりとした、実に優雅なテスト試乗をさせてくれたので、ここに紹介しよう。

BMWだけどBMWではない。アルピナディーゼルの走りを見る[フォトギャラリー]

アルピナ

乗り出してすぐに体感できた『アルピナマジック』

まず往路でMOTA編集部にあてがわれたのは「アルピナ D4ビターボクーペ」だった。

そしてこの2ドアクーペは、世田谷の細い荒れた道を走らせた瞬間からいきなり、“アルピナマジック”を発動させた。

ベースとなるのは、現行4シリーズクーペである。現在BMWは3シリーズを新登場させたばかりだからまだ新型4シリーズのローンチはしておらず、言ってしまえばこれは旧シャシー。しかしその乗り味は恐ろしく“たおやか”で、古さなど感じさせない。それどころか大人の男を唸らせる乗り味を呈したのであった。

その乗り味には“癒やし”と“正確性”が同居していた。路面からの突き上げをサスペンションがしなやかに吸収し、バウンスは一発で抑える。ステアリングの反力は軽く、しかし遊びがないために、このゆっくりと起こるロールモーメントを正確に操ることができる。

折しも当日は東名高速道路の渋滞がひどく、中央高速まで一般道を走り山中湖へとアクセスした。都内の緩慢で、ときに抜け目ない割り込みが横行する渋滞のなか、D4の中だけは、心地良い移動空間としてスタッフとの会話が弾んだ。

そんなD4が静かに本領を発揮したのは、もちろん高速巡航に入ってからだ。特に八王子を超えてからの山間部では、このシャシーとエンジンのリズムが滑らかにマッチングしてきた。

アルピナ

D4に搭載されるエンジンは、2992ccの排気量を持つ直列6気筒ディーゼルターボ。BMWジャパンでもセダン/クーペ系は7シリーズ以上にしか搭載されず、XシリーズでもX3なら「M40」(240PS/680Nm)、X5以上に与えられるユニットをもつことが、ひとつのステイタスとなっている。

そしてこの出力は、350PS/4000rpm、700Nm/1500-3000rpmにまで高められている。

いや高められているというよりもそれは、余裕の地力と言えるだろう。浅いアクセル開度でもD4は確実に加速し、これを半分も踏み込めば簡単に追い越しをかけてゆける。むしろパドルシフトによる変速は、その強力すぎるトルクバンドを外すためにあるのかもしれない。

そしてこの動力性能に対し、4シリーズクーペのボディ剛性と、アルピナ仕込みのサスペンションが見事なまでに呼応する。

それは「M」とは対極の世界観だと思う。Mはより高い次元でのGフォースに備え、これに負けないサスペンション剛性を有する。それゆえに日常領域では鋭いステアレスポンスが得られ、オーナーはその俊敏性に満足する。当然だがその分だけ、乗り心地は犠牲となる。

アルピナ
アルピナ

しかしアルピナは“今”を見つめている。街中から快適な乗り味を保ったまま、これが高速領域においてもしなやかに追従することに、完璧に狙いを定めている。

だからといって、超高速領域でこれが破綻するようなものではない。むしろワインディングではこうした路面追従性を有することが安全に速く移動するための常套手段で、だからこそアルピナという名前を冠しているのだと筆者は思う。

アルピナ、つまりアルプス。欧州のワインディングを駆け抜けるには最高の一台という意味なのだろうと思う。

そしてこの乗り味には、むしろ現行3シリーズさえもが寄ってきた印象を持つ。

アルピナ

700Nmの強大なトルクを解き放ち超高速領域へ

山中湖のリゾートで昼食を取り、向かった先は富士スピードウェイ。

ここではセダンである「D3ビ・ターボ」だった。

今回は菰田潔インストラクターの先導付きであったこともあり、その動力性能を100%しゃぶり尽くすことは適わなかった。しかしこれこそが、アルピナの味わい方指南だったのだろうと、今になって思う。

セダンであるD3は、D4に比べ重心が高いと感じた。車重はD4より実は20kgほど軽いようだが、全幅で15mm小さく、全高で75mmも高いディメンジョンがその理由なのであろう。

対してエンジンパワーは350PS/700Nm、タイヤサイズも同等だから、そのパワーを全開にすれば、いとも簡単にリアはスキッドする。

しかしここで試すべきは限界特性ではなく、ここまでの一般道では試せなかった超高速領域での実力。これを菰田インストラクターは言いたかったのだろう。

アルピナ
アルピナ

その全開加速は、ディーゼルとは思えないほど速い。しかしエンジンサウンド自体はスポーティながらも凶暴ではないから、そのスタビリティと共に安心してこれを踏んで行くことができる。もし先導車がなければ1コーナーのブレーキング時で、260km/hオーバーは可能だっただろう。

高速コーナーとなる100Rでの接地性は高く、弱アンダーステアを保ったまま全開で下って行くことができる。ただコーナー立ち上がりの加速で乱暴にアクセルを開ければ、D3は“ブルッ”と身震いする。特に3セクターのような曲率が狭いコーナーだと、700Nmのトルクが、ドリフトを通り超してスピン寸前まで簡単にオーバーステアを作り出す。

ターンインから弱アンダーステアに仕立てられているため、ニュートラルステアを維持するようにエンジンの中間加速を使ってドリフトアングルをつなぐ走りはやりにくそうだ。しかしそれこそが、日常領域での安全性を担保している。

アルピナ

ディーゼルだからこそ味わえるアルピナマジックがある

帰路はこのD3を世田谷の基地までドライブした。

荷重領域が高いサーキットでは柔らかく感じられたシャシーも、オープンロードではD4より重厚な乗り味を示した。これは高い重心を支えるべく、足回りを少し固めているからだろうか。たおやかさという面ではD4の方が好みだが、それでもハイパワーユニットを搭載するFRとして考えると立派に“アルピナ”していた。

ちなみにアルピナの足回りは、彼らが独自に仕立てたものではない。それでもBMWが持つ部材の中から、よりハイレートなスプリングやスタイビライザー、そしてブッシュを巧みに選りすぐってはいるのだろうが、基本的にはBMWの素材を使い、電子制御ダンパーをアルピナの乗り味へとアジャストしただけなのだというから驚いた。

だからこそ、その味わいは“アルピナマジック”と呼ばれているのだと初めて知った。

アルピナ
アルピナ

後輪から分厚いトルクを押し出し、どっしりと走るその様は、高性能セダンとしての役目をまっとうしている。日本での使い勝手を考えればこれは、確かに5シリーズや7シリーズよりも乗り回しやすく、なおかつアルピナのバッジが静かにそのステイタスを守ってくれるから、ベストチョイスのひとつだと感じられた。

アルピナ
アルピナ

アルピナはそのエンブレムにウェーバーキャブレターとクランクシャフトを描くことからも分かる通り、かつてはエンジンチューナーとしても名を馳せたメーカーだ。BMWのエンジンを搭載しながらも、独自に鼻の脂を効かせたチューニングでマニアを唸らせる存在だった。

しかし昨今はBMW製エンジンそのものの性能が高まったことや、環境性能が厳しくなったことでその影は弱まった印象があった。

だが今回D3とD4をロングドライブしたことで、ディーゼル・ターボが彼らにとっての大きなアイコンになったのではないかと強く感じた。本家の「M」に対して、アルピナは元来の「B」シリーズもさることながら、この「D」シリーズとアルピナマジックの乗り味が、時代を捕らえていると思えた。

[筆者:山田 弘樹/撮影:佐藤 正巳,ニコルレーシングジャパン]

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