【水がない!】山の生水は「浄水器」で飲めるようになるのか?!【実証レポ】 山を流れる水は、一見とてもきれいに見えても多くの細菌や不純物が含まれています。エキノコックスなどの病原菌は重大な危険にも繋がりかねません。そんな時にとっても便利なのが「浄水器」。ほぼ煮沸と同様の効果でサッと簡単に安心な水を作り出すことができます!今回はそんな浄水器の中でも登山で携行しやすいモデルをセレクトし、飲み水作りの実験をしてみました。

しまった!!水があと少ししかない……

登山中に「喉が乾いて水をいっぱい飲んでしまった…」「気付いたらあと少ししか残ってない…」という経験はありませんか?
特にザックに入れたまま吸水できるハイドレーションを使っていると、水の残量がわからないのでついつい沢山飲んでしまいますよね。

よっしゃー!!水場発見!

そんな時に現れる水場はさながらオアシスのように見えるもの。
大自然を流れる天然水は、透明で澄み渡っていてとっても美味しそうに見えますね。

でもこの水、そのまま飲んでも大丈夫かな?

ちょっと待って!生水をそのまま飲むのはおすすめできません

日本では多くの場所で水道水を飲むことができますが、それは徹底した水質管理がされているため。
しかし、飲用水として処理されていない山の水は、一見きれいに見えても様々な病原菌や不純物を含んでいる可能性も。
その原因として、大きく分けて2つの影響が考えられます。

①動物による影響
山の中には多くの野生動物が暮らしています。その動物たちの糞、時には死骸などが水場の上流部にある可能性も
また、北海道では主にキタキツネの糞を感染源とする「エキノコックス」という寄生虫がおり、その卵が糞中に含まれて沢水に流れている可能性があります。最悪の場合、それが原因で死に至る危険性さえあります。
これは本州なら大丈夫というわけではなく、いつどこに危険が潜んでいるかわかりません。

②人間による影響
沢の上部に山小屋やテント場がある場合は、その生活水や糞尿が水に含まれている可能性があります。山小屋の衛生環境や登山者のマナーがよくなっているのは間違いありませんが、それでも人が山にいる以上、防ぎきれない部分が出てきてしまいます。

このように山の水には多くの感染源が存在します。感染症に陥ることはまれですが、決して可能性はゼロではありません。

生水をそのまま飲むか、読者に聞いてみました

YAMA HACK読者アンケート(2019年6月実施)では「飲まない」「躊躇する」が53%と過半数を占めました。
意外と「気にしない」という猛者(?)も多かったのですが、前述のようなリスクを知るとちょっと心配になってきませんか?

煮沸すればいいけど、何かと面倒くさい

生水から飲料水を作る場合、バーナーを使って水を沸騰させて滅菌する「煮沸」が一般的によく使われている方法。
この煮沸は菌を死滅させるためには5〜10分の沸騰が必要だったり、ザックからバーナーを出し入れしなければいけなかったりと、なかなか手のかかる作業です。
目的地に着いて時間に余裕がある時は良いのですが、いざ「登山途中で」となったらなかなか大変ですよね。

煮沸に代わる手段としての「浄水器」の効果とは?

その煮沸とほぼ同等の効果が得られるのが、フィルターを通して水を濾過できる「浄水器」
日本の正規代理店から販売されているモデルは基本的に食品衛生法をクリアしており、「安心な水」を作る手段としてとても有効な方法だと考えられます。

手の平サイズの浄水器、性能はいかに?!

浄水器は家庭用のものから大型のサバイバル用のものまでその種類もさまざま。
今回はそんな浄水器の中から、登山で使用する上で必須となる「コンパクト性・軽量性」の条件をクリアした2モデルで、生水を飲料水に変える実験をおこなっていきたいと思います。

ソーヤー ミニ

「ソーヤー」はアメリカ発のアウトドア用浄水器メーカー。近年では開発途上国における「汚れた水」や「蚊」に対する対策を打ち出すことに力を注いでいます。また有害な病原菌を99.99999%除去できる世界最高レベルの製品として世界から評価されています。
新開発のフィルターは、小さく軽量でありながらも、ろ過能力は38万リットルと高い耐久性を有しています。お手入れも付属の注射器で通常とは逆方向に水を噴射することで洗浄ができるので扱いやすいのも特徴。

MSR トレイルショットマイクロフィルター

幅広い高機能アウトドア用品を手掛けるMSRは、革新的な浄水器を開発するパイオニアとしても君臨。
このトレイルショットマイクロフィルターは、フィルターをポンプで覆う構造になっており、軽量・コンパクトでありながらも高いろ過能力を持った浄水器です。フィルターの寿命は約2,000リットルです。本体の半分程度水を吸い込ませてシェイクし、注入口から押し出すことでお手入れができます。

この先水場なし。どこから流れてるか不明な苔むした沢水で試します

やってきたのは、長野県の某山。往復6時間のコース(標高約1,700mの山)の1,200m地点。
ここから山頂まではコースタイムで2時間00分。地図を見る限りこれより先に水場らしき場所はなし。
山頂での炊事分と飲む分を合わせると、ここで2Lの水を汲む必要がありそう……。

ぶん

水は透き通ってきれいに見えるけど(苔も木の枝もあるし……)。どこから湧いている水かもわからないし、飲んで大丈夫かちょっと心配

実験①:水を作るのに何ステップ必要かやってみた

ソーヤーは3ステップで飲料水が完成!

まずは生水を汲み取ります。この時に、あらかじめパウチを空気で膨らませておくと水の入りが良いです。

パウチにフィルターを取り付けます。
専用パウチだけでなく、プラティパスやペットボトルとも互換性があるので、大容量のプラティパスなどがあれば一度に大量の水を作ることが可能です。

あとはパウチをフィルター側に絞ることで、フィルターの先端部からろ過された水が出てきます。

【良かった点】
・水を汲み取ったら、あとはフィルターを付けて絞るだけなのでとても簡単。
・プラティパスやペットボトルとも互換性があるので、自分のスタイルに合った使い方ができそう。
・パウチはボトルを兼ねるので、移し替えなくても持ち運び可能。先端に口を付けてそのまま飲めます。

【気になった点】
・水深が浅かったり流れがない場所では水の汲み取りに苦戦しそう……
・絞り出す時にやや力が必要。飲料水用のボトルを置けるような平らな場所を用意しておくと、両手で絞れるのでやりやすい。

ぶん

生水特有のニオイやにごりもなし!味も違和感なく美味しく飲めました

MSRは2ステップで水が作れちゃう!

まずはノズル側のフィルター部分を水の中へ入れます。

あとは本体の半透明部分を何度もポンピングします。最初はチョロチョロですが、徐々に安定した水が出てくるようになります。

【良かった点】
・手順がシンプルでとてもわかりやすい。
・浅瀬や水の流れがない場所でも給水しやすい。

【気になった点】
・泥などが沈殿している場所にフィルターを沈めてしまうと、すぐに目詰りしてしまいそう……
・ずっとポンピングをしていると握力を使ってしまう。

ぶん

こちらもニオイやにごりは全くなし!冷たい水でとても美味しかったです。ちょっと心配しましたが、翌日になってもお腹が痛くなるようなことはありませんでした

検証結果
どちらの浄水器も手順はとても簡単。必要な時にサッと取り出してすぐに使うことができ、水問題の心強い相棒になりそうです

実験②:2Lの水を作るのに何分必要か試してみた

次の実験では、山行で使用する2Lの水を作るのにどれぐらいの時間がかかるかを、①の実験の手順をもとに計測します。
今回は分量をわかりやすくするために、2Lペットボトルを使って計測をおこないました。

ソーヤーは約3分50秒!

ソーヤーは[パウチに水を入れる→フィルターを取り付ける→しぼり終わったらまたフィルターを外す]という作業に時間がかかった印象です。

また、今回はペットボトルに移し替えたので両手を使うことができましたが、自立しないプラティパスなどは片方の手で容器を支え、もう片方の手でソーヤーを絞る必要がありそうです。

ぶん

思ったよりも時間がかかってしまった!でもあまり体力を使わずに水を作ることができました

MSRは約2分57秒!

MSRは水につけてポンピングすればいいだけなので、とてもスムーズに2Lの水を作り出すことができました。
しかし、後半は握力を使い切ってしまい、持ち手を変えながらポンピングをすることに。

ぶん

急がずゆっくりポンピングをすれば、腕が疲れることもなさそう!段々と水作りが楽しくなってきます

検証結果
どちらの浄水器も短時間で2Lの飲料水を作ることが可能!でも時間は水場の状況や入れる容器によって前後あり

結論:安全性と煮沸の手間を考えると浄水器はあり!

筆者は煮沸をして水を飲むことが多かったのですが、今回の実験を経て「浄水器ってこんなにも簡単で便利なんだ」ということを知りました。クッカーのサイズや湯冷ましなどを考えると、2Lの水を煮沸するには相当時間がかかってしまいます。

コンパクトでかさ張ることもなく、ものの数分で安心な水が作れる浄水器。これを備えておけば、皆さんの登山がまた一つ安心して楽しめるものになるはずです。

【今回紹介した浄水器の注意点】
・全ての水にろ過効果があるわけではありません。海水、鉱山から流れ出た水、農場近く、化学物質で汚染された水には絶対に使用しないでください。
・メーカーの使用方法を適切に守った上で使用してください。

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