今月の視点 銃規制に厳しく、刀剣類に甘い日本での規制強化は急務 雨季の真っ只中に入ったというのに、なぜか電力エネルギー省が期待しているほどの雨量にならない。例年なら激しいスコールが日に何回かやってきて晴れ間が覗くというパターンだったが、今年は様相が異なる。

雨季の真っ只中に入ったというのに、なぜか電力エネルギー省が期待しているほどの雨量にならない。例年なら激しいスコールが日に何回かやってきて晴れ間が覗くというパターンだったが、今年は様相が異なる。

今月の視点 銃規制に厳しく、刀剣類に甘い日本での規制強化は急務

課題は水力発電依存から 火力発電への移行へ

雨季の真っ只中に入ったというのに、なぜか電力エネルギー省が期待しているほどの雨量にならない。例年なら激しいスコールが日に何回かやってきて晴れ間が覗くというパターンだったが、今年は様相が異なる。
計画停電とやらは一時より収まったが、今季はなぜか雨が少ないため、国内主要水力発電所の水位が最低値になり、水力によるミャンマーの総電力需要約56%のうち、まだ半分の供給しかできていないという。その分、これまで約43%をカバーしてきた火力発電に、さらに依存しなければならなくなる。
当方がこの国に来た約10年前は、水力発電への依存率が70%といっていたので、少しずつだが火力発電への移行は進んでいる。またシャン州では大規模なトンネル工事が終わり、近隣のダムへの水の流れが改善されたというニュースも流れた。政府には無策とは言わないが、それでも予測不可能な雨乞いをせざるおえない状況が来年も続くとなると、やはり不安になる。何とか早急に手を打たねばならない。

無差別殺人は未然に 防ぐ手立てはないか

不安といえば、日本の「銃刀法」の規制の甘さも気になる。約1月半前に、神奈川県川崎市で小学校の児童ら19人が殺傷され、犯人が自殺したテロ事件はまだ記憶に新しいが、私もこの国に来た当初、当時大使館に赴任していた外務省職員の小山智史さんに一度だけお会いしたことがあるが、その小山さんが犠牲になったと知ったときは本当に驚き、悲しんだ。
この事件に関しては「見ず知らずの他人を巻き添えにする」ことへの表現に関して様々な意見が飛び交ったが、当方の疑問は、毎度こうした凄惨な事件が起きるたびに、犯人はなぜいとも簡単に刃渡り25cmもの包丁を購入できたのかという点だ。
日本で「銃砲刀剣類所持等取締法」が制定されたのが、昭和33年(1958年)3月10日である。制定当時の題名は「等」の位置が異なる「銃砲刀剣類等所持取締法」であったが、7年後に改正され、現題名となった。この改正により、所持に加えて拳銃の輸入を取締対象に追加した。そして銃砲刀剣類の所持を原則 として禁止し、これらを使った凶悪犯罪を未然に防止することを強化した。
しかし拳銃などの定義は明確だが、「刀剣類」についてはいまいちよく判らない。条項には、刃渡り15cm以上の刀、やり及び薙刀(なぎなた)、刃渡り5.5cm以上の剣、あいく口および45度以上自動的に開刃する装置を有する飛び出しナイフとある。だが、ここでいう飛び出しナイフには、一般の飛び出しナイフのうち、刃渡り5.5cm以下で、開刃した刃体をさやと直線に固定させる装置を有せず、刃先が直線であってみねの先端部が丸みを帯び、かつ、みねの上における切先から直線で1cmの点と切先とを結ぶ線が刃先の線に対して60度以上の角度で交わるものは含まれないそうだから、日本語は本当に難解だ。
問題は所持の禁止条項だ。第22条では「何人も、業務その他正当な理由による場合を除いては、内閣府令で定めるところにより計った刃体の長さが6cmをこえる刃物を携帯してはならない。ただし、内閣府令で定めるところにより計った刃体の長さが8cm以下のハサミもしくは折りたたみ式のナイフ又はこれらの刃物以外の刃物で、政令で定める種類又は形状のものについては、この限りでない。」と規定され、これに違反した者は2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる。
この条文も非常に判りづらい。しかしこの「銃刀法」はその一部が平成21年に再び改正された。刃渡り6cmだったのが、5.5cm以上の剣やそのほかの刃やナイフが所持禁止となったのだ。

凶器の包丁を簡単に 売買できる盲点

今回、川崎の犯人は刃渡り20~25cmの包丁を数本所持していたという。だからこの「銃刀法」の観点から仮に所時していた時点でわかれば、あるいはもし販売側が不審に思って通報さえしていれば逮捕されてしかるべきで、こうした事件は未然に防げたかもしれない。
しかしこの男がなぜこうも簡単に凶器を購入できたのか。調理人や漁業関係者ではないことは明白だろう。以前にもこうした凶悪で許しがたい事件が起きるたびに、スーパーや刃物屋さんで身元も確認されず に購入できてしまうことを疑問に思っていた。
今、米国では銃による乱射事件が頻発して、銃規制法への論議が国論を2分しているが、あちらは、数百万人ともいわれる会員をもち、政党の票田にもなっている「全米ライフル協会」が消滅しない限り、この法案は成立しないだろう。
日本には厳しい銃規制があるが、その割りに刀剣や長尺の包丁などへの規制が甘いのはなぜか。今後は売る側の意識も厳しく問われていかねばならない。少なくとも5,5cm以上の刃物は、身分証明書や使用目的を明確にしなければ販売も購入も出来ぬように「銃刀法」を改正すべきではないか。野党も自己満足でしかない「内閣不信任案」なんか出してる暇があったら、こうした凶悪事件を未然に防ぐ法案の見直しを早急にすべきではないのか。 その点ミャンマーでは、こうした無差別殺人のようなテロ行為は滅多に起きない。いや、少なくとも当方が滞在中の9年半では聞いたことがない。これは軍政時代からの厳しい治安維持の意識が国民の側に潜在的に定着しているかも知れぬが、やはり罪もない人を危めたりすることへの罪悪感が、仏教的戒律の影響によって強く自制されているような気がする。
夜間、ヤンゴンでも街は暗いが、繁華街なら女性が安心して歩ける街は、東南アジアではヤンゴンが一番だろう。そうした安心感から異国に来ても緊張感を持たずにせ暮らせる。こうした点がミャンマーに憑かれる魅力のひとつかも知れぬ。だからいつまでもこの心地よさが続いていってほしいと願うばかりだ。

栗原富雄(くりはら とみお)
Yangon Press編集長

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