MLBインド進出 国際部副社長の狙い「野球の成長の余地はある」「公式戦開催を」

MLBインドオフィス設立会見の様子【写真提供:ジム・スモール】

インドは15年以上前から目をつけていた市場

 大リーグ機構(MLB)は6月29、30日にヤンキースとレッドソックスによる伝統の一戦をロンドンで開催した。これに続き、7月2日(日本時間3日)にはインドのニューデリーに国際オフィスを設立すると発表した。

 インドではクリケットが絶大の人気を誇り、トップ選手であればおよそ40億円を稼ぐとも言われている。投手が投げて、打者が打つ。ルールこそ違えど、野球と似た動きをする選手達に既にMLBは注目していた。2007年にはインド各地で「ミリオンダラー・アーム」と呼ばれるスピードガンコンテストを開催し2人のインド人選手、リンク・シンとディネシュ・パテル両選手を発掘。

 1から野球を覚え、翌年にはトライアウトを経てパイレーツとマイナー契約を果たす。彼らの入団までの過程は映画化もされるほどだった。実際の2人はメジャー昇格こそできなかったが、世界戦略を展開するMLBにとって大きな事例をつくったことになる。

 それから約11年が経過し、MLBはインドのニューデリーに新オフィスを構えることを発表した。今回、新オフィス設立発表の記者会見に出席した国際部門のジム・スモール副社長に話を聞いた。

 世界2位の人口を誇るインドに対し、MLBはいつから目をつけていたのだろうか。それは「ミリオンダラー・アーム」が始まる数年前から既に市場化する計画は始まっていたという。

「インドには15年以上前から目をつけていました。将来的な市場となりえるかどうかは、コーチを現地に派遣して野球プログラムを実施したり、野球用具を送ったりしながら見極めていきました。その間に多くのリサーチを繰り返して昨年、インドで野球にも成長の余地があるとみて投資することを決めたのです」

 シンとパテル両選手以降はインド人選手とマイナー契約を結んだ球団はない。しかし、現地にはMLBのコーチが継続的に派遣され、クリケットが国のスポーツを支える場所に野球が入り込む余地があるか常にチェックしていた。

インドで公式戦開催の可能性も!?

 現在、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)が発表している世界ランキングでインドは65位(日本は1位)であり、国内にも野球連盟は存在するものの、国際大会では成績を残せておらず、発展へのきっかけを失っていた。しかし、スモール氏は「インドは野球の分野で目立った成績を残していません。それでも、現地にはおよそ5万人ほどの野球選手がいると言われており、その事実が野球を成長させる機会だと思っています。野球やソフトボール、クリケットも『投げて打つ』という動きは変わりません。この共通点があるからこそ、野球の技術を向上させるための助けになります」とこの状況を前向きにとらえている。

 こうしてインドに新オフィスを構えることになったMLB。最初はインドで野球の試合を開催できるように環境を整えていく。スモール氏によると、テレビ放送を通じてインド人に試合に親しみをもたせ、インド各地の学校で「ミリオンダラー・アーム」のような野球プログラムを導入する予定だという。また、数年後には中国にある「MLBディロップメントセンター(MLBDC)」のような選手育成施設の建設も計画している。

「私達はこれからも野球が発展していない場所での公式戦開催を目指しています。先日のロンドンシリーズや今回のインドオフィス設立発表は目標に向けた第一歩です」

 MLBは既に東京、メキシコシティー、北京、ロンドンに国際オフィスを構えており、これまですべての場所で公式戦を開催した。そして、今回のインドオフィス設立によって将来的にニューデリーでの公式戦開催の可能性が大きくなった。将来的には中国を抜いて世界一の人口になると言われるインドで、MLBの世界戦略はさらに加速する。果たして、インド人初のメジャーリーガーの誕生は実現するだろうか。(豊川遼 / Ryo Toyokawa)

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