立憲民主党・枝野幸男代表「現状にそぐわないこれまでの政治手法から劇的にシフトし、多様な価値観・生き方を力に変える」|参院選2019政党インタビュー

選挙ドットコムでは参院選の比例代表に候補を擁立している各政党・政治団体(以下、各党)の代表・幹部に参院選の争点・政策や政治・選挙の意義について聞く取材依頼を行い、取材を受諾した各党の代表・幹部にインタビュー形式で取材しました。今回は立憲民主党・枝野幸男代表へのインタビューの模様をお届けします。

従来の企業収益を起点とした経済政策は、もはや通用しない。「暮らしの安心を回復させる政治をどう作っていくか?」が最大の争点

‐‐ 選挙ドットコム編集部 (以下、選挙ドットコム)
まずは、今回の参院選の一番の争点と、それに対する立憲民主党の政策についてお話いただけますか?

枝野幸男 立憲民主党代表 (以下、枝野氏)一番の争点は、暮らしの安心を回復させることにつながる政治を、どのように作っていくか、というところです。

経済そのものを、企業収益を起点として、世の中に広めていくという従来のやり方が、もはや通用しなくなってきています。これから、所得の再配分で家計所得そのものを押し上げる、それで消費を伸ばすことが必要。今後は、家計所得の伸びを起点に経済を回していくという経済システムに転換していかなくてはならないのではないかと思います。

家計所得を伸ばす一環でもあるのですが、介護や医療、子育て支援の分野は今後ますます必要になるのに、低賃金のために人材が集まらないという現状をなんとかする必要があります。この分野の賃金を押し上げていくことで、老後や子育ての安心を高めていくと。こうしたところが、我々の政策の目玉です。

憲法改正のポイントは、立憲主義の強化。「時代遅れの解散権には制約をかけ、国民の知る権利を憲法で裏付けたい。9条改悪とはとことん闘う!」

‐‐ 選挙ドットコム
憲法改正も、参院選の争点のひとつになるのではと思いますが、立憲民主党としては憲法に対してどのような方針をお持ちでしょうか。

枝野氏我々は、立憲主義をより強化するという観点からの憲法改正議論を、より積極的に進めてきています。

ひとつはなんといっても、解散権。議院内閣制の先進国で、内閣が自由に解散できるというのは、もはや時代遅れ。日本のほかはほとんどありません。ここはしっかり議論して、解散権の制約をすべきだと思っています。

もうひとつは国民の知る権利の強化です。公文書の管理や情報公開も含めてですね、法律でも、もっと強化しなければならないのと同時に、憲法上の裏付けをもっとしっかりつけていく必要があるんじゃないかと、こういう議論を進めているわけです。

一方で、9条については、現在の安保法制、集団的自衛権は違憲ですから、違憲の法律を自分たちで作っておいて、それを既成事実化するような憲法9条の改悪とは、とことん闘うと。こういう姿勢で臨んでいます。

[おまかせ民主主義]から[参加型民主主義]へと民主主義をバージョンアップ。今の社会の変化に沿った政治の劇的な変革を、時代の変わり目に成し遂げたい

‐‐ 選挙ドットコム
今回の参院選に向け、立憲民主党は「令和デモクラシー」というキャッチフレーズを挙げましたが、具体的にはどのようなことですか?

枝野氏この選挙は、安倍政権に対する評価というのも大きなポイントですけれど、そもそも昭和の時代から平成へと引き継いできた政治の手法が時代に合わなくなってきていることについて、今後どうしていくのかを選択する選挙でもあると思います。

今、人口はどんどん減少していく、ますます超高齢化社会になっていく、そしていくら企業収益が増えても、その豊かさが一人一人の暮らしに、うまく伝わらない状況になってきています。
以前の、人口も所得も右肩上がりが続いていく状況とは一変しています。状況が変わってきているのだから、当然、従来の政治の手法は通用しません。相当大きな政治のパラダイムシフト(注・集団を支配する考え方が、劇的に変化すること)が必要ではないかと。

そのひとつは、経済の点で所得をどう押し上げるかという手法の転換をしなければならないし、暮らし向きが本当に多様になっていて、価値観も多様化する中で、その違いを認め合う社会を再構築する必要があります。この多様化を力にして伸びていく国にしていかなければならないんです。

こうした大きな転換こそが、今こそ必要だというのが私たちの訴えです。

そこに向けては、社会を変えるのと同時に政治の在り方そのものも「おまかせ民主主義」から誰もが参加意識が持てる「参加型民主主義」へと変えていかなくてはなりません。多様な考え・多様な暮らしがあるだけに、誰か上の人がポンと決めたって、ひとりひとりの暮らしの向上とはつながっていかないんですね。多様な暮らしの声をどうボトムアップしていくかという民主主義スタイルのバージョンアップが必要なんです。

これをトータルで名前を付けるとすれば、日本の政治体制を国民主体に大きく変えた「大正デモクラシー」になぞらえ、それに匹敵するようなパラダイムシフトにしたい、そしてちょうど時代の変わり目にこういったことが求められているということなどから「令和デモクラシー」としました。

多様性に富んだ候補者の一覧を見れば、我々の目指す社会というものをイメージしていただけるのでは?

‐‐ 選挙ドットコム
多様性ということでは、立憲民主党の今回の参院選の候補者は、まさに多様性に富んだ顔ぶれとなっていますね。

枝野氏今回の我々の候補者は、候補者の一覧をざっと見ていただくだけで、我々の目指していく社会というものをイメージしていただけるのではと思っています。
性的マイノリティの方、耳の聞こえない方、保育士のほか、実際に何人もの子育てて苦労されている方、セクハラ被害に遭った経験を踏まえて性暴力被害者の支援活動をしている方など、さまざまです。本当に多様な、当事者的なみなさんに我が党から立候補していただいています。

政治には「ベスト」を求めつつ「ワースト」を避けるという役割がある。ワーストを避け、よりベターな選択のために一人区では候補者を1本に絞った

‐‐ 選挙ドットコム
選挙には行こうと思っていても、小選挙区の自分の候補者のことがよく知らない、という一般の人たちは少なくありません。そうした方からは、一人区で野党が統一候補を立てる意味がわかりにくい、という声があります。

枝野氏参議院選挙の場合、比例代表があり、ここでは各政党がそれぞれの主張を掲げて戦います。そして定数の多い選挙区では、いくつもの政党が独自の候補者を出して戦います。比例代表や複数の定数の選挙区では、みなさんの考えに一番近い「ベスト」は何か、という選択をしていただきたいです。

一方で、政治の役割には「ベスト」を求めると同時に「ワーストを避ける」という役割もあるのです。

当選者が1人しかいない全国32の一人区においては、なかなかベストを選択していただくのが難しいかわりに、ワーストを避ける、どちらがよりベターかという選択をしないと、なかなか有権者の皆さんの思いと選挙結果がつながってこないんですね。

そうした意味で「今、現に力を持っている安倍政権で、暮らしはよくなりましたか?」と。今の政治の方向をちょっと変えていったほうがいいんじゃないか、という声を、しっかり1つにまとめて、形にしていこうと。それで1人区においては野党で候補者を一本にまとめて、あえて野党と一騎打ちの構図を作り「ベターなのはどちらか」という皆さんの選択の声をはっきり選挙結果に反映したいと考えたわけです。政治の現状維持にイエスなら自民党候補、変えていきたいノーなら野党の統一候補、どちらがベターかを選んでいただく形ですね。

ゼロから立ち上げた立憲民主党の強みは「思い切ったチャレンジができること」と「政策や理念の方向性でも割り切って主張できること」

‐‐ 選挙ドットコム
1人区に統一候補を立てたことで、各野党の違いがなかなか見えにくいという声もあるのですが、他の党と立憲民主党の違いというか、特徴はどんなところでしょうか。

枝野氏立憲民主党の特徴としては、私自身にもその前に長い政治経験がありますが、おととしの衆議院選挙前のいきさつの中で、本当にゼロから党を立ち上げたというのが我々の大きな特徴だと思っています。ゼロから立ち上げただけに苦労も多かったです。今支えてくれている我が党のスタッフも、その時点では立憲民主党ではなかったので、党職員がいない状況で衆議院選挙を戦うという、とんでもないことをやったわけですが、一方でゼロから立ち上げることができた分、思い切っていろんなチャレンジができるし、政策や理念の方向性についても非常に割り切って主張することができます。

‐‐ 選挙ドットコム
今回のインタビューの企画として、さいころを振っていただいて、こちらが用意した質問にランダムで答えていただくというのがありまして、ぜひお願いしたいのですが。

枝野氏いいですよ! 4番、ですね。

‐‐ 選挙ドットコム
4番の質問はこちらです。「予算などの制約が仮に無ければ真っ先に実現させたいという政策を1つ挙げると何でしょうか?」

枝野氏これは、党代表として立憲民主党が実現させたい政策ということですか? それとも私自身、政治家・枝野幸男個人として、実現させたい政策?

‐‐ 選挙ドットコム
できればぜひ、その両方を伺いたいです。

枝野氏立憲民主党全体として実現させたい政策は「総合合算制度」ですね。これは、医療、介護、保育、子育て、障害福祉などの社会保障サービスを受けるときに、利用者が負担する自己負担額を世帯ごとに合算して、世帯ごとのトータルが一定額を超える場合は超過分を国が負担するという制度です。この自己負担する一定額というのは、所得に応じて条件をもうけると。

さらに現状では低年金の方、国民年金でしかも満額もらえないという方も多くいらっしゃる。その低い年金しか収入がない人にとっては、その大半を社会福祉サービスに払ってししまったら生活が成り立たないわけですから、そういう世帯の場合は自己負担の上限額を大幅に引き下げる、軽減制度の確立をしっかりしてね。これはすぐに効果があるし、安心を作る政策なので、制約を突破しででも実現させたいです。

個人の一政治家・枝野幸男として実現したいのは、26年間取り組んでいる選択制夫婦別姓の実現。こんなに長い間かかっても、まだ実現できてないということで、関係各所の皆様には本当に申し訳ないことだと思っておりますし、私自身「なぜできないのか」という苛立ちを持ちながら、ずっとやってきておりますので、個人としてはこれですね。

‐‐ 選挙ドットコム
ではもう1度、さいころをお願いします。あ、今度は1番ですね。「『政治』で何ができますか?『政治』でないとできないこととは何ですか?

枝野氏みんなが幸せになるための公正な社会という基盤を作る。これは政治がすべきことですし、政治でないとできないことだと思います。そして、公正公平な基盤の中で、それぞれの幸せは、政治が「これが幸せですよ」と押し付けることなく、それぞれが自由に自分の考える幸せを求め、実現していただく。あくまで政治は、みなさんが自分の考える幸せを実現するための土台作りが役割です。

ネットでの情報発信は、集会やなどに代わる有権者とダイレクトに繋がる手段。党と有権者の相互交流だけでなく、支持者同士の横のつながりも生み出す

‐‐ 選挙ドットコム
若者の多くがインターネットに情報を求め、既存のメディアのテレビ・新聞を見ない・読まないという人が増えている中、立憲民主党はネットでの情報発信に力を入れているように思いますが、どのように考えていますか?

枝野氏いわゆる既存のメディアでは、非常に一部を切り取ったメッセージしか伝わらないことが多いです。きちんとメッセージを伝えるために、従来であれば集会をやるとか街頭演説で話すということをしてきましたが、わざわざその場所に集まっていただくのは大変ですし、すべてのメッセージを全国のみなさんに聞いていただくのは不可能でした。そういう意味では、有権者の皆さんが気軽に政党なり政治家が、何を語り、何を考えているかを知っていただくには、ネットというのは大変効果的なツールだと考えています。日本全国、いや世界どこからでも、自分の好きな時間にアクセスできるわけですからね。

もうひとつは、なかなか支援のようなものが社会全体の中で集まりにくくなっている中で、立憲民主党を応援しようと思ってくださっている方が、横につながっていくという新しいネットワークが、インターネットを介して構成されつつあるのは非常に心強いと感じています。立憲民主党結党の経緯の中でも「じゃあ、自分たちはこれができるから、こういうことで応援しましょうね」とかっていうのが、ネットを通じて自然発生的に生まれて、我々を支えてくださった。

人との関りが薄れ、知縁が弱くなっている社会の中で、不可欠なツールであると思っています。

‐‐ 選挙ドットコム
枝野さんが演説するとき、心がけていることはありますか?

枝野氏私自身は一貫して、結党時を含め、他党や政権の批判する内容は少ないと思います。私の集会や街頭演説などは、たぶん、どこを切り取っていただいても批判よりもポジティブなメッセージがほとんどを占めていると思います。もちろん、国会の演説ではね、それこそ不信任決議案のように、相手を批判することを目的にした演説の場合は、しっかりと問題点を指摘しますけれどもね。

そもそも有権者の皆さんが求めているのは、他者に対する批判ではなく、前向きなポジティブメッセージだと思うんです。今、現状では安倍政権に批判的な人たちと、肯定的な人たちとに、非常に明確に二分されてしまっている。安倍政権に肯定的な人たちに、いくら呼び掛けても、なかなか時間もかかるし、伝わらないと。

で、批判的なみなさんに、批判で追い打ちをかけるより「私たちはこうする。こっちのほうがいいでしょ」と語りかけていきたい。また、その真ん中に残っているみなさんに、批判を述べ立てたところで、引いちゃうんじゃないかと。

これ実は、私の最初の選挙から一貫しているんですが、自分の選挙の対立候補についてあれこれ言わない。というか、触れない。その分「私は」こんなことをしたい、こんな社会を作りたいというのを、一生懸命語っています。

今回は、党で上げている「令和デモクラシー」というメッセージについて熱く語りつくしますよ。もちろん「今の政治は時代の変化についていけてませんよね」という事実は申しあげるし、これは自分たち、私自身の26年間の反省を含めて申しあげているつもりで、外に責任を押し付けてだからダメなんだ、ということは言いません。

ぜひ立憲民主党の熱くポジティブなメッセージに、一度耳を傾けていただきたく思います。

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