「子どもの心に残るお祭りに」 川崎・中島の七夕祭り

商店街に多くの人波が戻った昨年の「たなばた夕市」=川崎市川崎区中島(櫻井さん提供)

 かつて風物詩として知られた川崎市川崎区中島の七夕祭り。失われたにぎわいを取り戻そうと奮闘する若者たちがいる。同区の会社員櫻井ひかりさん(24)が同級生らとともに尽力。祭りを主催する商店街に働き掛け、昨年、12年ぶりの復活にこぎ着けた。だが、会員の高齢化などから商店街そのものが存続の危機に。再びともした灯を守るため、2度目の夏も熱を帯びている。

 10歳の夏の日は今も鮮明によみがえる。両親から渡された千円を握りしめ、商店街に駆けだした。見上げれば七夕飾りの吹き流しで空が見えない。小さな体は街路を埋め尽くす人混みにのまれる。「気付けば迷子になっちゃって」。そんな失敗談も、懐かしく、どこか誇らしい。

 中島の七夕祭りは「中島中盛会」の各店舗がオリジナルの竹飾りを制作。約300メートルの通りを所狭しと飾り、往時には約2万人が集まる一大イベントだった。

 一方、そのにぎわいこそがいつしか課題となった。口コミや雑誌掲載で評判が広がった結果、あまりの人出に近隣住民の生活に支障を来すようになり、2006年限りで休止。「なくなってしまった衝撃がものすごく大きかった」。中学、高校、大学はいずれも市外の学校へ進んだが、櫻井さんの胸から活気に満ちた夏の思い出が消えることはなかった。

 いつか復活させたい-。思いが形になったのは就職を控えた昨年春。商店街に近接する病院でインターンをしたことがきっかけだった。同病院の職員に相談すると、商店街の役員と会話をする機会も増えた。

 さらに、地元の友人も誘い、地元のまちづくりに携わるボランティア団体「YOLO」を結成。仲間とともに商店主らの懸念を少しずつ払拭(ふっしょく)し、昨年7月、「たなばた夕市」として開催にこぎ着けた。

 「昨年は久しぶりに人が集まって成功だった」と中島中盛会の白井博会長(68)。櫻井さんも感慨を込める。「知らない人からも『ありがとう』と言ってもらえた。みんなやってほしかったんだな」

 今年は13日の開催に向け準備を進める。ただ、継続的な催しにするにはまだ課題がある。

 中盛会は高齢化などを理由に本年度限りの解散を検討している。「中心になっていた方が廃業するなど、役員のなり手がいない」と白井会長。会員店舗は30と、平成初期から半減した。来年以降は運営が不透明な状況にある。

 それでも、前を向くしかない。再び長く地域に根付かせるためにも、櫻井さんは来年度以降の祭りの運営方法を模索していくつもりだ。「昔の私のように、子どもたちの心に残るお祭りになって、将来自分もやりたいなって思ってくれたらいいな」

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