今から34年前の夏(2019年現在)、全世界を巻き込んだ巨大なロックイベントが行われた。アフリカ飢餓救済を目的とした『ライヴエイド』である。
ロンドンのウェンブリー・スタジアムで幕を開け、フィラデルフィアの JFKスタジアムでフィナーレを飾ったこのチャリティイベントは、世界84か国に生中継され、日本ではフジテレビが15時間にわたって放送した。
枚挙に暇がないビッグアーティストの出演に、当時のティーンエイジャーは胸ときめかせ心躍らせると同時に、本格的な映像の時代が到来したことを体感するのである。思えば、この85年の春から夏にかけて、僕らはテレビを通じてセンセーショナルな映像を目撃し続けている。
4月、甲子園球場でのバース・掛布・岡田のバックスクリーン3連発に始まり、6月には血まみれの殺人現場が生中継された豊田商事会長刺殺事件。松田聖子の結婚やおニャン子クラブのブレイクを挟みつつ、8月にはグリコ・森永事件の犯行グループからの「終結宣言」。
奇しくもその直後に起きた日本航空123便の大惨事!
その後も、中曽根首相が戦後初の靖国公式参拝を敢行したかと思えば、KKコンビ(桑田・清原)の PL学園が夏の甲子園で優勝。ちょっと涼しくなってきた9月にはロス疑惑の三浦和義が逮捕されてメディアは乱痴気騒ぎ。
もう、濃すぎる。
ちょっと振り返るだけでもこの濃度である。そんな最中のライヴエイド。
音楽ファンにとっては、それこそセンセーショナルなライヴ映像が満載でしたが、当時の僕にとって一番印象に残ったのはザ・カーズの映像。でも残念ながら彼らのライブパフォーマンスではない。
それは、カーズが前年にリリースしたラブソング「ドライブ」を BGM に使った「エチオピアの飢餓」と呼ばれる CBCテレビ制作のドキュメンタリーフィルム。
大勢の飢えた人々、立つことすらままならない痩せ細った子供たち、蝿を追い払うことすらできない衰弱した赤ちゃん、うつろな目で遠くを見つめる母親…。
もちろん、イベントの主旨的に見ても極めて秀逸な映像であることは間違いない。夜中のテレビに喰いつくように見入り、心を傷ませると同時に非常に考えさせられるドキュメンタリーフィルムである。
しかしながら、一介のロックバンドのラブソングにここまで別の意味を持たせてしまう「映像」って、とてつもなく恐ろしいな… と感じてしまう僕がいたことも事実だった(しかも全世界中継)。
ここでは「ドライブ」を BGM に使った CBC の「エチオピアの飢餓」とオリジナルの「ミュージックビデオ」そのものをエンベッドしておきます。
CBC のドキュメンタリーを先に見てしまうと、MV をフラットに見ることは困難かもしれませんね。
皆さんはどう感じました?
カタリベ:太田秀樹