中日ファン囁く“ホームランテラス待望論” 賛否を実際に選手、監督に聞いてみた

中日・高橋周平、与田剛監督、大野雄大(左から)【写真:荒川祐史】

前半戦を終えチーム本塁打46本は12球団ワーストの中日

 中日は前半戦を80試合37勝43敗の5位で終えた。首位の巨人とは離れているが、2位のDeNA、阪神とは2ゲーム差。充分にAクラスを狙える位置だ。

 中日のチーム打率は2割6分でリーグ2位。得点圏打率は2割5分7厘でリーグトップ。実は「チャンスであと1本」は出ている。しかし、得点は306でワースト。その原因の1つは46本と最少の本塁打数。最多の巨人107本とは2倍以上の差。残念ながら、「チャンスで一発」は中々飛び出さないのだ。

 そこで「ナゴヤドームにホームランテラスを作っては」という声がファンの間でも囁かれるようになった。これを選手はどう思っているのか。賛否を聞いた。ハーラートップタイの9勝を挙げている柳裕也は即答だった。

「絶対に要らないです。声を大にして反対運動をしたいくらい。ビジターからナゴヤドームに帰ってくると、本当に広さを実感します。1つくらいピッチャー有利な球場があってもいいんじゃないですか」

 大野雄大も反対だった。

「ナゴヤドームで助かったという打球はたくさんあります。今年、ヤフオクで先発しましたが、不思議なもので、そもそもテラスがある球場だと思って投げると、テラスに入っても割り切れるんです。ただ、今のナゴヤドームにテラスができると、『これまでならアウトだったのに』と凹むでしょうね」

 一方、平田良介は大賛成。

「ナゴヤドームでは完璧に打たないと、入りません。ただ、他の球場では少し詰まったり、先っぽに当たったりしても、ホームランになる可能性があります。これはめちゃくちゃ大きい。フェンス直撃や柵越えがナゴヤドームではアウトになる。シーズンを通すと、成績は全然違ってきます。ここでは野手は育ちにくいと思います」

 ダヤン・ビシエドは白い歯を見せた。

「良い提案だ。欲しいね。ただ、狭くなったからと言って、ホームランは狙わないよ。ミートに集中するだけだ。ピッチャーに不利だが、それは相手チームも同じ。僕は歓迎だね」

 ほぼ同じ意見なのが高橋周平。

「賛成です。ただ、球場によって打撃を変えることはありません。テラスができたとしても、ホームランは狙わないです」

 パワーヒッターではない京田陽太も賛成派だった。

「ファンが喜ぶんじゃないですか。野球は点取りゲーム」

 ベテランの藤井淳志も同意見。

「ホームランは野球の醍醐味。お客さんが楽しいはず。テラス席を作れば、少し割高でもチケットは売れるでしょう。興行面を考えても、球団にとってはプラス」

投手、捕手は反対派が多数、大島は中立派

 具体案を持ち出した上、投手への思いを語ったのが堂上直倫だ。

「ウォーニングゾーンのラインまでフェンスを前に出して、高さも今の半分。ホームランキャッチができるギリギリの高さがいいと思います。日本ではピッチャーはクオリティースタートや防御率より、まだ勝ち星で評価される。それなら、一発で逆転がある方が良いのかなと」

 投手の評価については山井大介も触れた。

「もし、テラスを作るのなら、クオリティースタートの基準など年俸の査定も変えないと。防御率は悪くなりますよ。僕は反対。1点を守り抜くのも野球の楽しみじゃないですか」

 中継ぎの祖父江大輔も難色を示す。

「僕たちは1球で勝負が決まる。打ち取った当たりがホームランになるのは厳しいですね」

 投手では珍しく、福敬登が賛成だった。

「ファンが喜ぶでしょう。確かに不利ですが、低めに投げる、腕を振って強い球を投げる意識は変わりません。要するに球場が狭くても、やるべきことは同じだと思います」

 大島洋平は中立派。

「バッターは有難いけど、ピッチャーは辛い。結局、プラスマイナスゼロというか、正直、どちらでもいいです。要は慣れの問題。僕たちは球場にアジャストすることが一番大事。ただ、狭くなると、守備は楽でしょうね。右中間や左中間を追う必要がなくなりますから」

 野手で反対したのは捕手陣だった。木下拓哉は言う。

「ホームランを打てる期待感より失点に繋がる警戒心の方が勝りますね。やはり打ち取った打球が入るのは嫌ですね」

 武山真吾は配球の心構えを語った。

「僕は大反対。ただ、仮にテラスができても、ホームランを恐れて配球を変えるはダメ。外の低めの変化球に偏ると、ボール球が増え、球数が増え、失投のリスクが増える。回転のほどけた甘い変化球ほど飛ぶボールはない。結局、ホームランも増えるんです」

 まとめると、投手と捕手が反対、野手が賛成。これが概ね結論だ。改めて、思う。現役選手はチームの勝利を強く望んでいるが、それと同じくらい自分自身の生活を必死に考えていると。

 最後に与田剛監督を直撃した。

「難しい。一概にどちらが良いとは言えない」

 慎重だった。ただ、指揮官は「いかなる状況でも前を向いて戦う姿勢」を求めた。

「世の中は常に現実が1つ、考え方が2つ。ネガティブ、ポジティブ、どちらに捉えるか。仮にテラスを作るとなると、投手陣には『よし!それならホームランを打たれないように抑えてやる』という気概を持って欲しい。逆に今のままなら、野手陣には『何とかもうひと伸びする打球を打ってやる』と思って欲しいね」

 さぁ、後半戦が始まる。とりあえず、今シーズン中にナゴヤドームにホームランテラスができることはない。この現実をどう捉え、どう戦うのか。竜戦士のプレーに注目したい。(CBCアナウンサー 若狭敬一/ Keiichi Wakasa)
<プロフィール>
1975年9月1日岡山県倉敷市生まれ。1998年3月、名古屋大学経済学部卒業。同年4月、中部日本放送株式会社(現・株式会社CBCテレビ)にアナウンサーとして入社。テレビの情報番組の司会やレポーターを担当。
また、ラジオの音楽番組のパーソナリティーとして1500組のアーティストにインタビュー。2004年、JNN系アノンシスト賞ラジオフリートーク部門優秀賞。2005年、2015年、同テレビフリートーク部門優秀賞受賞。2006年からはプロ野球の実況中継を担当。
現在の担当番組は、テレビ「サンデードラゴンズ」(毎週日曜12時54分~)「High FIVE!!」(毎週土曜17時00分~)、ラジオ「若狭敬一のスポ音」(毎週土曜12時20分~)「ドラ魂キング」(毎週金曜16時~)など。著書「サンドラのドラゴンズ論」(中日新聞社)。

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