「ためらわず 常に前へ」 東京・ゲストハウス「シーナと一平」切り盛り 金子さん

「夢は家族で海外旅行。父、母、パートナーと兄夫婦、みんなで行きたい」と話す金子さん=東京都豊島区、シーナと一平

 東京・池袋近郊の商店街の一角に、外国人に人気の小さなゲストハウス「シーナと一平」がある。“番頭”として切り盛りするのは、西彼時津町出身の金子翔太さん(28)。周囲には、男性同性愛者(ゲイ)であることを明かしている。大学卒業後、都内の企業に就職したが、理想と現実の差や人間関係に悩み、2年で退職する挫折を経験。その後、人とのつながりの中で新たな道を見つけ、今は充実した日々を送っている。「ためらわず前に進む気持ちが常にあれば、いい方向に進む」と振り返る。
 池袋から地下鉄で1駅目の「椎名町」で降り、昭和の風情漂う商店街を進むと、以前閉店した「とんかつ一平支店」の古びた看板が目に入る。「シーナと一平」は、この看板をそのまま残して築45年の建物を改装し、和室3部屋と男女混合の大部屋を備えた定員10人の宿。2016年3月にオープンした。「シーナ」は椎名町から取ったという。
 金子さんの名刺には「番頭 つよぽん」とある。「安易ですけどタレントの草なぎ剛さんに似てるからと、大学時代に付いた愛称なんです」

●同性愛を告白
 性的指向を、以前は家族にも知らせていなかった。カミングアウトのきっかけは、都内の大学に在学中の12年春、東日本大震災から1年後の被災地でボランティアに従事した時だ。一緒に参加した女性が、大勢の初対面の人の前で「私、女の子が好きになるんです」と自己紹介するのを聞いて驚いた。周囲も「そうなんだ、頑張れ」と優しい雰囲気に包まれた。
 金子さんはその場で明かせなかった。「伝えたら心が軽くなるのに、なぜ言えなかったんだろう」。悩んだ末、「伝えたい人には伝えていいことなんだ」と思えるようになった。卒業を前に、仲の良い友達や親に打ち明けた。「自分のことを認めて、自分を好きになって生活していこう」と心に決め、社会に出た。

●社風なじめず
 13年春、娯楽系の大手企業グループ傘下の商社に就職。取引先との商談を担当する営業部署に配属された。「面白い人に出会えそう」と考えていたが、入ると保守的な社風になじめなかった。性的指向を知らない上司らからは「彼女いないのか」「結婚は」と聞かれ、苦痛を感じた。直属の上司に打ち明けて改善を訴えたが、状況は変わらなかった。うつ病を患い、入社1年半で休職。半年後の15年春、退職した。
 再起のチャンスをくれたのは、ボランティア活動などで知り合った人々だった。

●出会いを力に
 会社を休職した頃、大学時代の被災地ボランティアで仲良くなった知人から、豊島区の街おこし活動の手伝いを頼まれ、参加。活動の一つに区内の空き家活用を図る事業があり、後に「シーナと一平」を開業する運営会社の日神山晃一代表(41)と知り合った。
 一方、大学時代の別のボランティア活動の人脈がきっかけになり、退職後の15年10月から半年間、海外で働きながら英語を学ぶプログラムに参加。海外滞在中に日神山代表から連絡があり、帰国後、「シーナと一平」で働き始めた。
 1年目は従業員として務め、2年目から現場責任者の“番頭”に。「手探りだったが、ホテルでも旅館でもない場所なので、自分たちでルールを作っていった」。和風でアットホームな雰囲気が海外客を引き寄せ、宿泊客の8割は外国人。身に付けた英語力が役立っている。

●表情晴れやか
 「一緒に働きたい人と働くことがすごく大事。自分自身で何かできるタイプじゃないけど、人と一緒に人のために何かをやったり協力したりすることには力を発揮できる」。今の職場でそう気付いた。そして「新しい世界に飛び込むことを怖がる必要はない」とも思えるようになった。
 前の職場ではうまくいかなかったけれど、「今は100点の毎日」。晴れやかな表情で語った。

古い看板「とんかつ一平支店」を掲げたまま店舗を改装したゲストハウス「シーナと一平」

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