「加害者家族」を支援する理由 幅広く、息長く寄り添う(2)

東京拘置所=2019年3月5日、東京都葛飾区(共同通信社ヘリから)

 犯罪が起きると、ごく普通の家族が突然、加害者家族となり、過酷な状況にさらされる。NPO法人スキマサポートセンター(大阪市)はこれまでに加害者家族から450~500件の相談を受けてきた。理事長の佐藤仁孝さん(36)に支援の実際を聞くと、支援が必要になるタイミングは多岐にわたり、ニーズは多様で、幅広く息の長い支援が求められていることが分かった。

(構成/共同通信=大阪社会部・真下周)

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 ▽家族が持ちこたえたら

 私たちが加害者家族を支援する理由は二つある。一つ目は人権上の観点だ。家族の人権や生活、プライバシーは守られていいはず。特に子どもには一切の責任がない。二つ目は再犯防止に資するから。事件が起きると家族は経済的に困窮し、社会的なダメージを受け、精神的にも参ってしまう。本人を見放してしまいがちだ。ここで適切な支援が入り家族が持ちこたえたら、本人が社会復帰した際には受け皿として機能する可能性がある。

 加害者家族には三つの側面がある。①犯罪を引き起こした原因としての家族②再犯抑止の観点から語られる家族③被害者としての家族だ。③はこれまで支援の必要性が語られず、ほとんど手つかずだった。ここ数年少しずつ理解が進んできた。

 仮に、家族に犯罪の原因としての側面が大きかったとしても、私たちはニーズがあれば家族に支援の手を差し伸べる。『あなたたちが悪い』と言って放置することはできない。加害者が戻ってきた時に同じことが繰り返されるのを防ぐためにも、家族への関与はあった方がよい。

 海外における加害者家族支援は数十年前に始まっている。イギリスでは民間の支援団体「Action for Prisoners’ Families」によって、電話相談などの社会的支援が展開されている。逮捕する段階で、警察が家族に支援団体の存在を伝え、つながるようアドバイスしてくれることもあるという。

 アメリカには多数の国立と州立の支援機関が設置され、家族療法を用いた介入を行い、効果の検証が進められているようだ。カナダでも、ヴィクトリア州の刑務所の脇には家族がミーティングできる場所が併設されているという。一方、オーストラリアでは被疑者や受刑者の子どもに焦点を当てたグループワークも実施されていると聞く。

 ▽法律全くない

 日本では2005年に「犯罪被害者等基本法」が施行され、犯罪被害者や被害者家族への支援が本格的に動きだした。加害者についても、明治時代からあった「監獄法」が06年に「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」に変わり、罰として刑に服す場所だった収容施設に、再教育の場としての役割が課せられた。

 対象者には、薬物依存や暴力団からの離脱指導や性犯罪などの再犯防止プログラムが実施される。就労などに向けた教育も求められている。だが加害者家族については、今も法律が全くない状況だ。

 ▽多様なニーズ

 スキマサポートセンターは2年ほどの助走期間を経て15年に設立した。縦割りに陥りがちな行政が行う支援の隙間を埋めるような活動を目的にしている。24時間対応の無料電話相談をきっかけにして、あらゆる問題に対応していく。事件発生から本人の社会復帰までをトータルに支援する活動を目指している。

 私たちのような組織は、社会ではまだ認知度が低い。家族が直接連絡してくるケースもあるが、刑事弁護人を通じてつながることも多い。弁護士の業務は原則、法律的な部分に限られ、容疑者の利益のために活動しており、家族の多様なニーズに応えることは難しい。

 私たちの法人は特に心理的なサポートに力を入れており、現在は私を含め、7人ほどの臨床心理士が在籍。職場はさまざまで、私は刑務所で脱薬物や性犯罪再犯防止などのプログラムにも関わっている。普段、児童相談所や病院で勤務している者もいる。

 弁護士や社会福祉士らも在籍しており、必要に応じて心理・法・福祉の専門性を生かして、迅速で横断的な支援を心がけている。このほかにも、元校長経験者、不動産関係者、保護司らとも協力関係にある。

 ▽匿名の相談

 過去の電話相談記録を集計し、分析してきた。最新の分は反映されていないが、2015~17年に受けた電話相談121件のうち、最も多かった犯罪の種類は強制わいせつなどの性犯罪で、2位は殺人だった。3位は「不明」。相談者が匿名を希望し、犯罪名も伏せて相談してくるためだ。これだけでも加害者家族が置かれた状況がうかがい知れる。4位は窃盗、5位は覚醒剤と続く。総じて社会的な影響が大きい事件での相談が多い。

 相談のタイミングで圧倒的に多いのは逮捕後の勾留中。事件の流れや量刑など今後の見通しが立たないことが相談のきっかけだ。次に逮捕直後、出所後、裁判中、事件後(保護観察などを含め全ての刑事手続きが終了した段階)、受刑中と続く。出所前後は本人の社会復帰に関すること、再犯を心配する相談が多い。

 ▽女性の相談3/4

 相談者は母親が一番多く、次いで妻だ。3番目は本人から。自らは拘束されている状況だが、弁護士などを通じて『家族が悲惨な状況になっているので助けてほしい』といった訴えが届くことがある。

 女性からの相談が75%で、男性は10%。残りは支援機関や弁護士から。逮捕者は男性が多いため、女性の相談が多いのは当然かもしれない。ただ子どもの事件でも、相談は主に母親から。父親の中には「あんなやつは知らん」と本人を突き放してしまう人もいる。男女差が大きく出る。

 ▽子どもの心身にも

 相談内容は複合的なケースが多い。相談1件に対し、主な訴え(主訴)を最大三つまで抽出すると、「子ども」に関することが最も多かった。転校や学費のこと、学校での噂、「子どもが心身の不調を訴えている」とした内容が多く、事件の内容を子どもにどう伝えたらいいかや、進路、就職、結婚など将来にどのような影響があるか不安、といった訴えも聞かれる。

 主訴の2番目は、「話せる場所が欲しい」というもの。私たちの法人では相談会のほか、同じ立場の人たちが情報交換し、思いを共有できるピアカウンセリングの場を定期的に開催している。

 3番目はメディア対応。4番目に感情の整理。5番目には「犯罪の原因を知りたい」が入った。

 相談には、加害者本人に関する悩みも含まれる。同様の手法で分析すると、本人の精神疾患に関する内容が最も多かった。その次に再犯(の心配)で、就職のこと、本人との関係について、(身元を)引き受けた後のこと、といった悩みも多かった。

「スキマサポートセンター」の佐藤仁孝さん(左)と「ワールドオープンハート」の阿部恭子さん(右)

 ▽危機介入

 支援には大きく分けて4段階あると考えている。第1段階は事件直後で、危機介入に当たる。刑事手続きの流れなどを説明し、当面の生活のためライフラインの確保にも奔走する。実際に私たちが転居に伴う家財の整理などを手伝うことも。家族は事件に動揺し、混乱している。勾留中の本人に面会に付き添い、代行することもある。突発的な感情の揺れがあり、自殺防止に心の支援が大切になってくる。

 ▽社会適応の支援

 〝嵐〟のような20日間が過ぎ、起訴の前後で家族は新たなステージを迎える。精神的に少し落ち着く人も多い。これが第2段階。今後の生活や経済的なこと、転職を含め職場関係をどうするか検討していかなければならないタイミングだ。社会適応が求められ、心理や福祉的な対応のウエートが高くなる。家族間で不和も起きやすい。

 深刻な場合には複数の心理職が入って、家族全体でカウンセリングを実施する。各位の思いや考えをアドボケイト(代弁し擁護する行為)し、すり合わせや調整を試みる。家族の破綻を回避するための取り組みだ。

 子どもがいれば、転校の手続きも必要になる。加害者家族は誰もが、転校先に事件について知られたくないと思っている。どうすれば一番影響を少なくできるか、悩ましい。こうしたケースで私たちが間に入り、学校側に配慮を求めることもできる。

 私たちは家族だけでなく本人に向けての支援も行う。家族の依頼であれば、本人も受け入れやすい利点がある。なぜ犯罪をしてしまったかを含め、心理職として本人理解のためアセスメント(評価)を行い、公判では、出所後の再犯防止や自立を目的として支援計画を提出することもある。

 ▽寄り添う支援

 受刑中などが第3段階。家族は本人や自らとじっくり向き合うことになるが、これが長くつらい時期で、事件についての後悔や事件後の苦労、本人への恨み、不満などもあり、感情が揺れ動く。この頃は気持ちに寄り添うような支援が有効で、ピアカウンセリングも効果がある。本人への面会も行い、双方の人間関係の維持に努める。

 ▽関わりの支援

 最後が出所後などに当たる第4段階。家族の関心はもっぱら再犯防止と自立だ。でも「面倒を見切れない」と感じていることも多い。特に本人にアルコールや覚醒剤の依存症や精神疾患があると、家族にとっては、身元を引き受けることは一段とハードルが高いものになる。

 この段階では、関わりの支援が中心だ。依存症には、専門的知識を持った支援者や回復者による、定期的な面談を通しての助言や指導が有効となるだろう。

 精神障害の人は病識がないケースも多く、危機時に措置入院や医療保護入院といった選択肢があることや、行政のケースワーカーとか各支援機関につながる方法を、家族に対して具体的にアドバイスしていく。

 ▽誰も損しない

 時間の経過とともに、家族の問題も変わっていく。1、2回の電話相談で終わるケースもあれば、数年関わり続けなければならないケースも。逮捕される前であっても、非行や犯罪で逮捕されそうだ、という不安を抱えている家族がいれば、出所後20~30年経っても、加害者本人が亡くなっていても、「つらい」と悩み続けている家族もいる。

 あらゆるケースに共通しているのは「どこに相談していいか分からない」「これから私たちはどうしていったらいいのか」という不安だ。阿部恭子さんが代表を務めるNPO法人「ワールドオープンハート(WOH)」(仙台)が2008年に設立され、続いて私たちが大阪で活動を始めた。それまで日本には相談できるところはなかった。加害者家族の問題は、置き去りにされてきたと言っていい。

 加害者家族の中には、死にたいと訴える人や、生活がままならなくなってしまう人、精神疾患を罹患する人がいる。支援に入ったある家族から「生きているのはあなたのおかげ」と言ってもらえたことがあった。人助けができて本当によかった。

 被害者からすると、心情が許さないところかもしれない。もちろん被害者支援の更なる充実が最優先であることは間違いない。しかし、加害者やその家族が不安定であれば、被害弁済が進まず、被害者が泣き寝入りをせざるを得なくなることも起きる。

 加害者家族を支え、守ることは、加害者を孤立から遠ざけ、ゆくゆくは再犯防止に寄与し、社会秩序の維持向上にもつながる。誰も損はしない。身内が事件を起こし、どうしていいか分からず途方に暮れている人はたくさんいる。ぜひ相談してほしい。そして、社会には加害者家族の支援にもっと目を向けてもらいたい。

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