【 #若者と政治 】遠くて近い 求めても届かぬ思い

職場や学校に向かう若者たち=横浜駅

 若者の投票率が低迷している。「政治に無関心」と批判される当事者たちは、どう感じているのか。20代、30代の神奈川新聞記者が同世代の若者に政治との距離、選挙への思いを聞いた。

◆ブラック企業、過労死… 「解決できるの?」

 学校も部活も、ずっと皆勤賞だった。でも、ある日突然、会社を無断で休んだ。「行きたくないというより、心と体がぷつりと切れたというか。心身ともに疲れて行けなくなった」。今でもうまく説明できない。ただ、その日を境に男性(28)=横浜市保土ケ谷区=の日常は一変した。

 大学卒業後、都内のマーケティング会社に就職した。現場のとりまとめ役としてスーパーや薬局で売り場の販促支援を担当したが、悪質な労働条件で働かせるブラック企業だった。

 人手が足りない。月平均100時間の残業が続き、土日の半分はサービス出勤だった。退勤時刻は実際より早い時間の入力を強制され、残業時間も修正された。上司に理不尽な要求をされても「はい」としか言えない。それでも仕事が追い付かず、店舗の担当者やクライアントから叱られ続けた。心が沈んだ。

 そして2016年9月、無断欠勤した。1日が2日となり、1週間となり、1カ月を越えた。異動の打診もあったが、やる気は戻らない。昨年5月、退職願を提出した。いまは定職に就かず、母方の実家の飲料販売を手伝う。

 人生を狂わせたブラック企業、過労社会など労働問題には関心がある。でも「本当に解決できるの?」と疑ってしまう。

 政治への関心は「ないとはいえない」程度だが、選挙は欠かさず投票している。「政治は究極、誰もが住みやすい社会をつくるためにある」と思うからだ。

 期待していないわけではないが、疑念は尽きない。旧民主党の政権交代時は大学生だった。何かが変わるという高揚感はあったが、裏切られた。森友・加計問題を見ると、自民党も信用できない。

 広告大手電通の新入社員やNHK記者の過労死は問題視され、広く報道もされた。ただ、国は自分がいたような中小企業の問題も把握し、是正できるのか。ごく普通に暮らす自分たちが抱える課題を解決できるのか。求めはしても、政治が応えてくれるとは思えないでいる。

◆「1票」に託せず

 大好きな音楽が仕事になった。それもフリーランスで。コントラバス奏者の女性(26)=横浜市鶴見区=は在日コリアン3世。昭和音楽大(川崎市麻生区)で学び、同大OBらでつくるオーケストラを今春に卒団した。他のオーケストラで演奏したり、中学校でレッスンをしたりと充実した日々を過ごす。

 とはいえ、音楽漬けとはいかない。固定給だった楽団員時代とは違って、浮き沈みは激しい。派遣やアルバイトを掛け持ちして、やりくりする。健康保険や年金をどうにか納める中、「老後2千万円不足」問題が浮上した。「これからやっていけるのか。正直、不安は大きいです」

 在日コリアンが向き合う無知や無理解を肌身で知る。小学校から高校までを朝鮮学校で過ごし、卒業後に初めて飛び込んだ「外の世界」では韓国人との「ハーフ」や留学生と何度も間違えられた。ホテルで観光客と誤解され、パスポートの提示を求められもした。日本社会の隣人同士。「理解されていないと思うと悲しくなる。私たちの歴史的ルーツが教育で取り上げられるようになってほしい」

 社会を変える一員になりたい。でも日本国籍はなく、日々の暮らしに直結する日本の選挙に1票を託すことはかなわない。

 周囲の日本人からは、選挙の話は聞こえてこない。「面倒くさい」からと投票に行かない同世代には歯がゆささえ覚える。「権利を持っているのにもったいない。私たちは言いたくても言えないのに」。政治ははるかかなたにあり、思いを届ける術はない。

 国籍はアイデンティティーにも関わるだけに、自身が日本国籍を取得するかと問われれば即答は難しい。でも思う。「もし日本国籍を取ったら、欠かさず投票に行きたい」

◆「保守」と「革新」認識正しい? 正反対に捉える人も

 若者の低投票率が続く中、「政治が分からない」との声が若者から漏れる。「保守」と「革新」もその一つ。自民党、日本維新の会が保守で、立憲民主党、共産党、社民党が革新。一般的な政党の位置付けだが、正反対に認識する若者は少なくない。

 保守は既存の制度、文化、伝統を守っていくことで社会は安定すると考える。一方、革新は自由や多様な価値観をより尊重し、これまでの制度や文化、伝統にとらわれない社会をつくろうとする。「リベラル」とも呼ばれる。

 若者が誤解する原因として指摘されるのが冷戦終結だ。冷戦期は安全保障政策を巡り保革のイデオロギー対立が激しかったが、冷戦終結で対立構造が見えにくくなった。冷戦をじかに知らない若い世代ほどイデオロギーの認識が薄く、「保守」「革新」の意味を単純に「守る」「変える」と捉えるようになった。

 そのため、例えば憲法問題で改憲を主張する自民などを“革新”、反対する共産などを“保守”と、本来の位置付けとは逆に捉えているという。

 保守は「右」、革新は「左」とも呼ばれるが、フランス革命期の議会で議長から見て保守的な勢力が右側に、革新的な勢力が左側に座っていたことに由来する。

© 株式会社神奈川新聞社