パパコーチ必見! 名スコアラー・三井の少年野球メソッド3 言い方ひとつで未来が変わる

巨人でスコアラーを務めた三井康浩氏【写真:編集部】

元・巨人、侍ジャパンスコアラー三井康浩氏 連載第3回「指導者へ伝えたいこと」

 Full-Countでは少年野球上達のための連載をスタート。元巨人で2009年WBC侍ジャパンチーフスコアラーを務めた三井康浩氏が少年野球指導の仕方をお伝えします。第3回は「指導者へ伝えたいこと」です。

 私は長い間、プロ野球の世界でスコアラーを務め、野球を分析してきました。そして、昨年10月から、子供の少年野球を指導しています。約30年、プロの世界に携わり、子供たちに正しい技術を身に着けてほしいなと願いながら野球を教えています。それが日本の野球界のレベルアップにつながるからです。今回は指導者の方にも少し考えを知っていただきたいことを記します。

 先日、私が教えているチームの試合で、攻守交替の時に相手選手が自軍の選手にぶつかってきました。すれ違いざまに殴られた選手もいました。最初は「危ないな」と思ったのですが、その後、試合の中でも驚くことがありました。

 別の選手が守備の時、けん制球を受け取った一塁手が走者に背中をタッチしたのですが、タッチどころではなく、叩いていました。1回目は我慢しましたが、2回目は今度頭をたたいてきました。そんなのは私がずっと愛している「野球」ではありません。

「こんなの野球じゃない、暴力だ」

 私は思わず言ってしまった。

野球を教える前に、大人がきちんと伝えないといけない

 見ていて悲しくなってしまいました。こんなチームがあるのか……、と。同時に指導者はどういう教え方しているのか、と疑問を持ちました。試合後、その指導者の方たちは私たちに謝ってきました。そのあと、選手たちに1時間ほどミーティングをしていました。野球を教える前に、大人がきちんと伝えないといけません。

 色々と少年野球のチーム見ていますが、少年野球の世代の指導者は難しいです。経験者でも未経験者でも悩みはつきません。

 厳しい言い方になってしまいますが、野球を嫌いになってほしくないから「楽しくやろう!」という方針は間違いではありません。ただ私はそれを聞くと「同好会でいいじゃないか」と思ってしまうこともあります。少年野球には対外試合が存在します。そこには勝負があります。ワイワイ、ガヤガヤというような楽しさ、好き勝手やって暴力が出てくるような試合では勝負にはなりません。楽しさをはき違えているところも多いのではないかと思います。

 私にとって、野球が楽しいときというのは、やっぱり試合相手に勝ったとき。勝つための練習、努力をして勝ちに結びついたときだと思っています。負ければ当然、悔しいし、楽しくはない。だからまた練習をする。

 指導者が気をつけないといけないのは、言葉の選び方だと思います。試合のミーティングで子供に対して、ネガティブなことをいうのは時に必要かもしれませんが、好ましくありません。例えば「お前はなんであんなプレーしたんだ」「もう使わない」という言葉は選手を萎縮させてしまうだけで、プレーが消極的になる。子供たちの可能性も夢も消してしまう危険があります。そういう時は、修正すべきポイントを挙げたあと「お前の持ち味は〇〇なんだからな」と背中を押してあげてほしい。コーチが傲慢にならないでほしい。

選手のモチベーション下がるのは指導者の責任とも思ってほしい

 選手が試合でうまくいかないプレーができなかった時は指導者の責任でもあります。例えば、プロの世界でもよくあるのですが、リリーフ投手にブルペンで準備をさせていたけれども、送り出すタイミングがずれにずれてしまった。ようやく出た場面で打たれたしまった。そこで「お前、ダメだったな」「なんであんな投球したんだ」と頭ごなしに叱る指導者がいました。

 モチベーションが下がるのは自分の責任とも思ってほしいです。プロと少年野球は違うけどピッチャーは必ず失敗します。精神的に追い込んではいけません。独特の打撃、投球フォームなんかも個性です。「そんなんじゃ打てない」とか「そんなんじゃダメだ」とか言っていませんか? マイナスかなと思います。子供の気持ちになってあげることが必要です。野球未経験のパパさんコーチだって、人として教えることはできると思います。指導者によって、野球の経験の長さが異なれば、引き出しの数も違うけど、子供の身になって話をしてあげる技術は変わらないと思います。

 子供への接し方という点では、中学、高校、大学までいって野球をやりたいという子がいるなら、別個に指導していかなといけないと思います。この先、野球を続けない子とはモチベ―ションが違う子の気持ちに気づいてあげてください。私の場合、そういう子は多少、しんどい練習をさせてもついてきますので、練習を厳しくしています。それでも、「教えてほしい」と目は真剣です。そこでプレーと練習の質が変わります。この先、野球を続けないという子には、挨拶や礼儀作法、口のきき方、そういう人間性の部分に力を注いでいます。見捨てるようなことはしません。

 子供たちの今を見るだけでなく、次のステージに進んだとき、どんな選手になるんだろうと自分で組み立てて、言葉の使い方を徹底してほしいと思います。少年野球の期間が終わったら関係ない、ではなく、その先をイメージして指導に当たってほしいと思います。

「俺がここの監督だから絶対だ」という考え、持っていませんか?(三井康浩 / Yasuhiro Mitsui)

プロフィール
三井康浩(みつい・やすひろ)1961年1月19日、島根県出身。出雲西高から78年ドラフト外で巨人に入団。85年に引退。86年に巨人2軍サブマネジャーを務め、87年にスコアラーに転身。02年にチーフスコアラー。08年から査定を担当。その後、編成統括ディレクターとしてスカウティングや外国人獲得なども行った。2009年にはWBC日本代表のスコアラーも務めた。松井秀喜氏、高橋由伸氏、二岡智宏氏、阿部慎之助選手らからの信頼も厚い。現在は野球解説者をしながら、少年野球の指導、講演なども行っている。

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