【#若者と政治】政治参加、ネットで垣根低く 学生起業家・伊藤さんがアプリ開発

アプリ「PoliPoli」を手に「楽しく政治にアクセスできる社会にしたい」と語る伊藤さん=東京都港区

 インターネットを通じて若者と政治の垣根を低くしたい。学生中心のベンチャー企業「PoliPoli」(神奈川県鎌倉市)はそんな思いを原点に、市民と政治家が双方向で議論し、課題解決を目指すアプリの開発・運営を手掛けている。政治との距離を感じがちな若者が「自分ごと」ととらえるためには何が必要か。同社代表取締役で慶応大3年の伊藤和真さん(20)は「身近なところから、楽しく政治に参加できる。そんな実感が大切」と語る。

 スマートフォンのアプリ「PoliPoli」を開発するきっかけは19歳の時、2017年の衆院選だ。元々インターネットビジネスに関心があり、大学1年の時には趣味の俳句を投稿できるアプリを作っていた。政治に対する強い関心があったわけではなかったが、衆院選時に街頭演説を見聞きし、「アナログ」と感じた。候補者に尋ねると「不特定多数に政策をアピールするため」と言われたが、立ち止まって演説を聞く人は少ない。若い世代に普及しているネットなら、有権者も政治家も効率的に時間を使え、双方向性を生み出せる。もっと活用できたらと思った。

 100ある政策のうち、自分の関心の高い分野で1パーセントくらいは違和感を持つと思う。若い人をはじめ、市民はそんなときに、政治の場に直接意見したり、協力したりする方法が分からない。簡単に楽しくアクセスでき、政治家が分かりやすく発信できる仕組みがあれば面白いと考え、アプリを作った。

 アプリはまだ発展途上だが、政治の場に市民の声を届けるきっかけになっている。たとえば北海道旭川市議が募ったプログラミング教育の構想案には、市民らから約100のアイデアや意見が集まった。議会でも取り上げ、事業の予算が付いたそうだ。東京都港区議は、性的少数者(LGBTなど)への施策に関して寄せられた声を議会で紹介した。自治体とも連携し、神奈川県が政策のアイデアなどを募集している。

 運営する中で、若い人も政治に興味を持ってほしいと感じる。アプリ利用者は関心の高い層だが、学生は基本遊びやバイトで忙しく、社会人になれば仕事が忙しい。家庭を持ったり生活が落ち着いたりして関心を向けるケースは多いと思うが、それでは若い世代が意思決定の土俵に立てず、高齢者向けの施策ばかりになってしまう。

 でも、「関心を持つべきだ、投票すべきだ」と言うだけでは、若者は動かない。費用対効果が分からないから。「自分ごと」ととらえるために大切なのは、政治に参加する楽しさやメリット、身近にあるという実感だ。

 たとえばアプリで身の回りの課題について投稿し、政治家から返信が来たり、解決に向けた動きが見えたりすれば、政治って案外身近で、声が届けば動くと実感できる。そんな成功体験をつくることが大事。道路が狭いとか喫煙所の位置が変とか、身近な課題も政治につながっていると思う。

 政治の役割はいろんな対立や価値観を調整し、より良い意思決定をすること。そして未来を考えること。そこに楽しく参加できる実感を伝えられたら。世の中に希望が持てるサービスをつくっていきたい。

 ◆PoliPoli 2018年2月設立のベンチャー企業。メンバーは学生中心で7人。アプリ「PoliPoli」の開発運営を主力事業に据える。市民や政治家に身の回りの課題を気軽に投稿してもらい、解決に向けて議論する同アプリの利用者は約1万5千人で、8割は10~20代。政治家は地方議員を中心に、国会議員や首長ら約500人が参加している。そのほか今春の統一地方選では、都道府県ごとに争点をまとめたサイトを開設するなど、さまざまなサービスを展開する。

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