究極の対物レンズの設計に東京工業大学が成功

東京工業大学の虎谷泰靖大学院生(当時)らの研究グループは、高い開口数でありながらすべての収差を補正した対物鏡「虎藤鏡=TORA-FUJI mirror」の設計に成功した。

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分子生物学では、主に1個ないし少数の分子の立体構造を観察し、さらに、細胞内部の系全体の俯瞰が重要だ。しかし、現在の技術では、複数の分子のマクロな集合状態を可視化できなかった。そこで、研究グループは15年間にわたり、このようなイメージングを実現できる極低温に冷却した試料の「クライオ蛍光顕微鏡」を独自開発してきた。2017年、色素1分子の三次元位置を1ナノメートル(1千万分の1cm)の空間精度で決定することに成功した。しかし、この顕微鏡の視野は数ミクロンと細胞のサイズよりも1桁小さいため、生体系への応用が困難であった。そこで、虎谷修士課程学生(当時)が新しい対物鏡の設計に取り組んだ。その結果、優れた光学性能を維持したまま、視野を面積比で600倍に広げることで、生物系の観察に適した虎藤鏡(注)の設計に成功した。この成功の鍵は、対物レンズの設計では非主流の鏡だけで構成された反射光学系を用いたことによる。設計に成功した虎藤鏡は、優れた耐環境性能(極低温から室温までのあらゆる温度、強磁場)、高い開口数(レンズの性能を表す値で0.93を達成)、広い視野(視野直径72μm)、理想的な結像からのズレである収差(単色収差、色収差)の補正を並立させた極低温用反射対物レンズ。同研究グループでは、試作した虎藤鏡を用いて生体系の研究が進行中である。今回の研究成果により、生命現象の分子レベル可視化が実現することにより生物に対する理解が進み、多くの生命の謎の解明が進むことが期待される。注:「虎藤鏡」は、究極のデザインを突き止めた虎谷泰靖氏と最終図面を書いた藤原正規博士の名前から命名。論文情報:

【Applied Physics Letters】Aberration corrected cryogenic objective mirror with a 0.93 numerical aperture

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