スレイド「ラン・ランナウェイ」でジム通い、アドレナリンが止まらない! 1984年 1月27日 スレイドのシングル「ラン・ランナウェイ」のシングルが英国でリリースされた日

柄にもなく最近、トレーニングジムに通うようになった。24時間空いており、自由に使ってください、というタイプのものだ。あまり大きくない最寄駅の周りに4つほどこんなジムがここ数年でできあがった。体力づくりを兼ねてブームに僕も乗ってみよう、ということである。

何しろ運動とは無縁の自分である。ダンベルはさっぱり上がらず、ランニングマシンで走っているとめまいがする始末。なんとか動かない体を動かす為に何か音楽を、と思いプレイリストを作ってみた。こういうものは初めが肝心なのであって、一曲目を選ぶ何回もの試行錯誤の末、ある一曲を選び出した。

それは、定番のオリビア・ニュートンジョンの「フィジカル」ではなくスレイドの「ラン・ランナウェイ」だった。

スレイドが僕にとってお気に入りのバンドの一つとなって久しい。ロックの正史に照らして見てみよう。彼らは70年代のグラムロック・ムーブメントに乗りハードでヘヴィなブギを鳴らしチャートを圧巻。ブームを起こした後、人気は低迷。

しかし80年代にイギリス産のヘヴィメタルが新たなムーブメントを起こすと、その雄、クワイエット・ライオットが代表曲「カモン・フィール・ザ・ノイズ(Cum On Feel The Noize)」をカヴァー。再評価が進み、90年代にはオアシスが同曲をカヴァーするなど、英国の代表的ロックバンドとなった、というものである。「ラン・ランナウェイ」は、80年代の再評価期の波に乗って放たれたヒット曲だ。

こんな話を聞いたことがある。イギリスではロックでも労働者階級と中流の聴くアーティストが違う、と。スレイドは圧倒的に労働者階級用のロックである。識字率が100パーセントではないイギリスで字を発音通り書くと “come” は猥雑な含みを持つ “cum” となり、“noise” は “noize” となる。スレイドはあえてそう綴った。労働者階級から支持を受けることを誇りにしていたからだろう。

単純労働の後パブに行きビールを一杯。フットボールの試合があれば、地元のチームをひたすら応援するフーリガンとなる。イギリスに住む友人から聞いた話であるが、ご当地ではフーリガンをあらかじめ警察がフェンスで「囲い」、その中ではどれだけ暴れても咎めないという対応方法もあるそうだ。そんな彼らの血の中に染み込んだ音楽を聴けば、こちらもフーリガンのように血は煮えたぎり運動も捗るというもの。

「ラン・ランナウェイ」はクラブチームの応援の「掛け合い」のようでフーリガンのための曲とも思えるし、とにかくアドレナリンの出る曲の典型のような一曲だ。日本各地にあるスポーツジムでこの曲がかかっていれば素晴らしいではないか… などと夢想しながら、今日もランニングマシンで走っている。

カタリベ: 白石・しゅーげ

© Reminder LLC