ファミコン初期の魅力 ― 任天堂「ゴルフ」音楽の存在しない音だけの世界! 1984年 5月1日 ファミリーコンピュータ用ソフト「ゴルフ」が発売された日

子供のみならず当時の大人達も夢中にさせた『ファミリーコンピュータ』、略称『ファミコン』には夢がたくさん詰まっていました。

画面の中で暴れるキャラクター達、ピコピコと鳴る音楽。そりゃあ、みんな夢中になったはずです。新しい遊びだったから。ちなみに、数あるゲーム機の中で最も売れたのはファミコンではなかったりします。

だが発売当時は生産台数が日本国内だけでも追い付かず、半年待ちでした。この当時の少年達は、大人になった今でも “ゲームは発売日に買わないとダメだ” と刷り込まれいるのではないでしょうか。

そんなファミコンの魅力はいろいろありますが、ゲームマニアの方の本やブログ等に譲ります。私が語りたいのは、初期のゲームの事で、ファミコン用のゲームソフト『ゴルフ』は1984年5月1日に発売されました。ファミコン本体の発売日は1983年の7月なので1年経たないで発売されたソフトです。

1984年は、チェッカーズの「涙のリクエスト」、近藤真彦の「ケジメなさい」、原田知世の「愛情物語」、小柳ルミ子の「お久ぶりね」とかが流行ってた時代です。

この当時のファミコンソフトは『スーパーマリオブラザーズ3』、ガンシューティングの『ワイルドガンマン』や『ダックハント』、そしてこの年に任天堂以外の会社もファミコン事業に参戦し、ナムコからは『ギャラクシアン』や『パックマン』など良質なゲームが登場。ハドソンからは『ロードランナー』等が発売されています。

本体発売から1年ちょっとでゲームセンターの人気ゲームが家でできるとあって、この時期あたりから「みんな持ってるからファミコン買って」と親に頼むようになり、ブームになっていきます。まぁ、その当時の親達の大半は最初「みんな持ってるわけないでしょ!みんなって誰よっ」とか言っていたとは思いますが…。

そんなファミコンが流行りだしたこの時期に、当時も今も地味な『ゴルフ』が任天堂からリリースされました。

それにしても、この『ゴルフ』、小学生の私を虜にしたのは「みんなやってないから極めてみよう」、「マリオなんか子供の遊びだぜ。やっぱりゴルフだよ、ゴルフ!」という天邪鬼のような理由からであったような…。

そして、何でそんなに自意識過剰だったのか覚えてないけれど、変な魅力が詰まっていたから…でしょうか。任天堂の思惑としては中高年層を取り込みたかったであろうことは容易に想像つくし、お父さんもこれをやればファミコンの良さがわかるであろう… という計算も見えます。

最初はルールがわからず、学校の図書館でゴルフのルールを調べ始めた。そして適当にやってくうちにゴルフの本質的な面白さに気が付いていき熱中していきました。

さて、この任天堂の『ゴルフ』は BGM というものが存在しません。ショットすると “ブォーン” って音が鳴るだけという…。他はバンカーに入った時、OB になった時、ボールを打つ時と落ちた時の音が流れるだけ。なんという地味なゲームなのであろう…。

ファミコンで音楽に目覚めて、テクノやデスクトップミュージックにハマった人は結構いると思いますが、私はこの『ゴルフ』のおかげで、テクノとかではなくノイズミュージックのマニア一歩手前まで行ってしまいました…。

この『ゴルフ』の音はノイズミュージックの用語でいうとダーク・アンビエントとかドローン系と呼ばれるものです。メーカーもこの『ゴルフ』によってノイズミュージックに目覚めた少年がいるとわかったら腰を抜かすでしょう(笑)。勿論ゲーム制作者はそんな事を考えて音楽を作った訳ではないでしょうけれど。

ところで、大野松雄さんという、アニメ『鉄腕アトム』の音効さん(業界では音響さんと言うっぽい)がいます。この大野さんは、アトムの足音等の音を作った人で、音楽というよりも音そのもので意外な結果を残し、1975年に『鉄腕アトム 音の世界』というアルバムをリリースしました。

ネットが出始めた時代、「効果音」など著作権フリーの CD があふれかえりましたが、この手のアルバムは「効果音全集」とかを欲しがった人とは全く違う層の注目を集めました。私もそうでした。

『ゴルフ』は最も無機質な効果音しかなくBGMと呼べるものはありません。本当に音だけです。『鉄腕アトム 音の世界』というアルバムと同じで音だけ。しかも効果音として聞きたいわけではなく、音単体で聞きたくなりました。

だが、この時代はノイズミュージックはアングラで芸術的な位置だし、ゲームミュージックの CD や LP も認知度は低かったようです。ゲームミュージックの CD が話題になるのは、スーパーマリオのヒットからで、その以前、マニアがナムコのゲームミュージックを欲しがっていたのはあったけど、まだまだ少数でした。

話がずれましたが、音そのものにも意味を考えたノイズミュージックや音響系の音楽というのは、ひょんな事から目覚めるんだと実感しました。今はゲームの音からミュージシャン志向になる方がとにかく多い時代になったと言えます。そして効果音全集等もかなりの需要があると思います。が、それとは別に、私のようにノイズミュージックや音響に目覚めた方も少なくないはずです。

私はたまたま『ゴルフ』というゲームでノイズミュージックに目覚めたわけですが、ノイズや音響、テクノ、ラップに目覚めた方って、こういうパターンが多いのではないでしょうか。いやあ、音楽っていうか音って深いですよね。

さて、この『ゴルフ』は、ゴルフゲームとしてもよくできています。風、芝目、力加減等を考慮して1ホールずつこなしていくのは、リアルゴルフの緊張感に似ているような気がしないでもない。だから、ショットを打つ時に母親に話しかけられただけでキレた記憶もあります…。

このように、私を虜にした任天堂の『ゴルフ』だが、このソフトのみならずゴルフゲーム全般にのめり込んでいくことになりました。

パソコン(当時はマイコン)用でリリースされたゴルフゲームをチェックし、ファミコン、スーパーファミコン、PS、サターン、64… といったハードの進化と共にゴルフゲームを買うものの、リアルゴルフは全く興味ないというへんてこな感性に。

これまで数々のゴルフゲームを楽しんできましたが、ヌルいものと硬派なものとに二分されているように思います。だが、本格的でもなく、かといってゲームの演出としての奇跡のショットもなかったこの任天堂の『ゴルフ』は、バランスが良く作られたゲームだと思っています。

この『ゴルフ』は、今でもオフィシャルでダウンロードができるみたいなので、皆さんもぜひプレイしてみてください。無機質だけども、本当によくできていますよ。

それにしても、この時代のファミコンやゲーセンのゲームには未来(?)みたいなものが詰まっていたように思えます。なんかこう「やる気あるぜ!」みたいな感じがしたものです。だって、当時はみんな未来は素晴らしい!と信じて疑わなかったから。

そんなきらびやかな時代を思い出し、レトロゲームを遊んでみてはいかがでしょうか? 「昔はもっと前向きだったよなあ」と思い返して明日から少しは元気になるかもしれませんよ!

カタリベ: 鳥居淳吉

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