3度目のオリンピック出場を目指す川中香緖里選手
悔しさを力に、闘志を放つ
川中香緖里は2012年のロンドンオリンピックで、日本アーチェリー界に初の団体戦メダルをもたらした貢献者の1人。16年のリオデジャネイロ大会では納得できる結果は得られず、悔しい感情だけが残った。それを晴らす一念で、彼女は東京を目指す。

初めてオリンピックの舞台で弓を引いたのは、12年のロンドン大会だった。
「ロンドンに着いてからも、自分がオリンピックに出るという感覚が、あまりなかったんですよ。なので、まずは楽しんでやろう、自分が練習でやってきたことをそのまま出せるように、精いっぱい頑張ろうと思って臨みました」

自身初のオリンピックで、個人戦は無念の1回戦負けに終わる。だが彼女にはまだ、団体戦が残されていた。
「個人戦は、あっさりと負けちゃったんですよね…。すごく悔しくて、その思いを団体戦で晴らそうという気持ちはありました」
準決勝でアーチェリー王国の韓国に敗れたが、3位決定戦でロシアに2点差で勝利。日本にとって、オリンピック団体戦で初となる銅メダルを獲得した。
「メダルをかけていただいた時に、すごくありがたい重みを感じました。団体戦なので、自分だけで取ったメダルじゃない。チームメートやスタッフの方々、いろんな方が助けてくれたからこそ取れたんです。これは、その重さなんだなと思いました。感謝の気持ちが詰まったメダルでしたね」

ロンドンで劇的な場面を演出した一人である彼女だが、アーチェリーとの出合いはドラマチックなものではなかった。生まれ育ったのは鳥取県。中学生の頃はソフトテニスに励み、高校に進んでからも続けようかと考えていたところ…。
「アーチェリー部の練習場が、校内の目立つところにあったんです。それに目をひかれて、物珍しさと興味本位で、面白そうだなと思って始めました。それまでは特に、アーチェリーに関心はなかったんです」
ゼロからのスタートにも関わらず瞬く間に頭角を現し、高校在学中にジュニアのナショナルメンバーに選出。’10年には19歳で国際大会にも出場を果たした。しかしその前年、高校を最後にアーチェリーから離れる考えも頭にあったという。
「モノ作りに興味があって。服を作ったりするのが好きなんです。高校を卒業したら、服飾の大学や専門学校に進もうかと考えていたんです」
だが、弓を置くことはしなかった。彼女をそうさせたのは、拭いきれなかった悔しい思い。
「高校3年のインターハイの結果が満足できず、それがアーチェリーを続けようと思うきっかけになりました。あそこで納得できていれば、辞めていたと思います」
同じ思いは、ロンドンに続いて出場したリオでも味わった。団体戦は8位、個人戦は1勝するも2回戦敗退で終わる。
「リオではメダルを狙っていたんですけど、狙いすぎて逆に自分自身を追い込んでしまったのかな…。結果には、悔しい思いが残りました。あの悔しさが今もあるから、東京を目指せる。もう一度、ロンドンで感じた楽しさを味わいたいです」

高校生で競技を始め、これまでにロンドン、リオと2度のオリンピックを経験した。ここまで競技を続けてこられた理由は、出発点である高校生の頃から変わっていない。
「やっぱり、悔しさですね。楽しさを上回る、悔しさを感じてきました。それは、結果を出すことでしか晴らせない。でもリオでは結果を追い過ぎて良くなかったので、必要以上に気負わず。まずは、自分のプレーに集中してやっていきます」

出場すれば自身にとって3度目となる東京オリンピックまで、あと1年に迫った。
「出たい気持ちはもちろん、すごく強いです。ですがそれよりも、アーチェリーをもっと楽しんで、余裕を持ってプレーできるようにしていきたい。それが、東京オリンピックへとつながっていくのが理想です。日々成長していく先に、東京がある。そういう思いですね」
目の前にいるきゃしゃな女性は言葉に合わせて表情を変え、時に魅力的な笑顔を交えて話す。ところがシューティングライン(射場)に立つと一変して、その顔から感情が消える。

「アーチェリーはテレビ観戦でも、選手の緊張感が伝わると思います。それまで無表情だった選手が、勝った瞬間にすごく笑顔になったりするのがいいんですよ。試合が終われば選手の素顔が出てくるところも、この競技の魅力だと思います」
彼女は1年後の東京に立った時もきっと、高ぶる気持ちを抑えて淡々と矢を放ち続けるだろう。そして大会で、全てが終わった瞬間。この取材で見せてくれたすてきな笑顔が、そこで見られることを願っている。

【TVガイドからQuestion】
Q1 印象に残っているスポーツ名場面を教えて!
ソチオリンピック(2014年)での、スケートの浅田真央ちゃん。ショートプログラムでいい結果が残せなくて、翌日のフリーで大成功した場面です。すごく努力されたんだろうなと思うと、見ていて胸が苦しくなりました。
Q2 好きなTV番組/音楽を教えて!
テレビ番組は、「ZIP!」(日本テレビ系)をよく見ています。音楽は…元気が出る曲を探していて。いい曲があったら、ぜひ教えてほしいです!
Q3 “2020”にちなんで、“20”代での目標を教えて!
納得のいくアーチェリーができるようになりたいです。そして20年後の自分には、「楽しめることをやっていてほしい」と伝えたいですね。

アーチェリー競技概要
70m先にある直径122cmの的を狙って射ち、中心円に当たると10点。離れるほど得点は下がり最低点は1点、的を外すと0点となる。オリンピックの個人戦は20秒の制限時間内に交互に射ち、最大5セット行う(1セットは3射)。各セットで得点の高い選手が2セットポイント、同点の場合はともに1セットポイントを獲得し、先に6セットポイントを上げた選手の勝利。オリンピックでは3人一組の団体戦、男女各1名ずつのペアによるミックス戦も行われる。
【プロフィール】
川中香緖里(かわなか かおり)
1991年8月3日鳥取県生まれ。しし座。
▶︎小学校はバレーボール部、中学校ではソフトテニス部に所属。アーチェリーは米子南高校で始めた。
▶︎入部して初めて矢を射った際の思い出は「思ったより大きな音で、すごいなと思いました。その1本は的に当たりませんでしたが、それよりも射てることがすごく楽しかった」と。
▶︎経験ゼロからのスタートだったが、高校1年次に鳥取県高校新人戦ダブル優勝、高校3年次にはジュニアナショナルメンバー入り。大学3年次にロンドン五輪の団体戦で銅メダルを獲得した。ここまでの競技歴はわずか6年。
▶︎東京五輪での目標は「私は個人戦への思い入れが強くあるので、個人でメダルを取りたいと思います。今まで、小さな世界大会などでも個人でメダルを取っていないので、個人で何か欲しいです(笑)」と控えめに語る。
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取材・文/カワサキマサシ 撮影/西木義和