「DVD=3」 エルヴィス・プレスリー『’68カムバック・スペシャルDVD』 鮮やかな復活を見せつけたTV番組を特別編集版で

エルヴィス・プレスリー『’68カムバック・スペシャルDVD』

 時代は移り変わらねばならない。古きものは新しきものに塗り替えられなければならない。そんな風に移ろう人の世のなかで、では「古きもの」となってしまった存在はどのように生き続けるのか……?エンターテインメントの世界では、そんな残酷な命題がアーティストたちに突きつけられるのが常であるように感じて、なんだか怖くなることがある。

 しかし本作は、そんな世間の冷酷さを鮮やかに反転させてくれた。一時代を築いたあと「一線を退いた」と見られていたあるスターが、見事な復活劇を世界に見せつけた瞬間が記録された名作。そのスターの名は、エルヴィス・プレスリー。1968年に放映されたTVショー『エルヴィス』のオリジナル放送ヴァージョンに、追加シーンを含めた編集版だ。

 いきなり大写しにされたエルヴィスの顔のアップにまず、圧倒され、魅了される。その後たたみかけるようにヒット曲を歌い上げ、その存在感と洒脱なパフォーマンスにオーディエンスも一気に引き込まれていく。そして、この次が山場だ。1926年の名曲『今夜はひとりかい?』の一節を歌ったあと、はしゃぐ観客たちをなだめるように、「少しだけ、音楽の話をしたいんだ」とふいにエルヴィスが話しだした瞬間は忘れられない。一世を風靡したスターが今、なにを語るのか。会場が固唾をのんで見守るなか、「最近の音楽は好きだ。でも、ロックンロールは基本的に、ゴスペルやR&Bから派生してきたものなんだよ」と、南部出身である自分の音楽ルーツに言及し、次の瞬間場面が転換して真っ赤なステージの上で19世紀に生まれた黒人霊歌『時には母のない子のように』を歌い出す、この展開は鳥肌ものだ。

(ソニー・ミュージックレーベルズ・3800円+税)=玉木美企子

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