再生ボタンを押してすぐ、もういないはずの彼が現れて、いきなりこっちを見て話し始めたから、思わず泣きそうになってしまった。今はもうこの世界から旅立ってしまった人が、何の気なしに、鼻の頭なんか掻きながら、大好きな音楽のことを話す、その姿。記録していたからこそまた観られるという尊さを感じながらも、その不在が逆に強く際立ってきて、どうしても胸が締め付けられた。
フジファブリックのフロントマン・志村正彦の没後10年にリリースされた本作。志村の遺作となった2009年の『CHRONICLE』の、スウェーデンでのレコーディングの模様や、全国9会場10公演を行った「CHRONICLE TOUR」のライブ記録映像およびドキュメント映像が収録されている。未収録オフショットが可能な限り入っている、というだけあり、その映像にはプライベート感のあるものが多く、なおのことメンバーみんなの「あたりまえだった日常」がまだここにあるようで切ない。
そして改めて感じるのは、演奏される楽曲たちの豊かさ。「カラフルに」と何度も志村が口にしているように、じつに多様でカラフルな楽曲たちが詰まっている。もっともっと、ずっといろんな世界を見せてほしかった。そう思いながらも、こうして新しい作品が観られることに感謝したいと思う。
(ユニバーサル・ミュージック・4000円+税)=玉木美企子