角層バリア機能が肌の紫外線(UVB)感受性に与える影響

2019年7月26日
花王株式会社

角層バリア機能が肌の紫外線(UVB)感受性に与える影響
~日本人女性における経皮水分蒸散量(TEWL)とMEDの関係から~

花王株式会社(社長・澤田道隆)生物科学研究所・スキンケア研究所は、すこやかで美しい肌の研究を深耕する中、皮膚(角層)のバリア機能が低下した肌では、比較的弱い紫外線でも肌に炎症が起こりやすいことを確認しました。このことから、角層の高いバリア機能は、物質の透過を制御するのと同様に、紫外線(UVB)に対しても機能を発揮していることを見出しました。

この研究成果は、2019年3月、「Photodermatology, Photoimmunology & Photomedicine」に、電子版が掲載されました
※1。
※1 UVB sensitivity correlates with cutaneous barrier function in the skin of Japanese females.
Takagi Y, Mori K, Taguchi H, Nishizaka T, Takema Y.
Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2019 Mar 25. doi: 10.1111/phpp.12467

■背景

角層のバリア機能は、外界からのさまざまな刺激物質の体内への侵入を防ぎ、また、水分をはじめとした体内の大事な成分の漏出を防ぐはたらきをしています。
刺激に対して敏感なアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患や敏感肌の人のバリア機能は、低いことが理解されやすいものの、一般の人には、バリア機能自体認識されにくく、意識も低いのが現状です。そんな中、近年、アレルギー発症には、口からではなく、皮膚からの原因物質の侵入の影響が大きいこと、発症低減(予防)には、乳児期のスキンケア(バリアケア)が重要であることなどが報告され、皮膚のバリア機能の重要性が認識され始めています。
花王は、皮膚(角層)のバリア機能に早くから着目し、角層の細胞間に存在する脂質(細胞間脂質)、特にセラミドが、アトピー性皮膚炎患者の角層で減少していることを東京女子医科大学と共同で見出しています※2。
※2 Decreased level of ceramides in stratum corneum of atopic dermatitis: an etiologic factor in atopic dry skin?
Imokawa G, Abe A, Jin K, Higaki Y, Kawashima M, Hidano A. J Invest Dermatol. 1991 96: 523-6.

■研究の概要

2010年11月、健康な日本人ボランティア女性285名(30~49歳・平均39.6±5.2歳)を対象に、上腕内側の皮膚の色、バリア機能(体内からの水分蒸散量:TEWL)、皮膚の紫外線に対する感受性(皮膚が赤くなる最小の紫外線照射量:MED)の測定を行ないました。
一般的には、肌の色が暗い方が紫外線に対して強いと思われがちですが、今回の解析の結果、皮膚の紫外線に対する感受性は、皮膚の色よりも、バリア機能の高さに有意に相関して低くなることがわかりました(図1)。さらに2回、各250人以上のボランティア女性を対象に測定・解析を行い、再現性を確認しました。

■今後の展望

本研究により、角層バリア機能が低下した肌は、紫外線の暴露によって、より肌に紅斑を生じやすいことがわかりました。つまり、皮膚のバリア機能が低い人は、紫外線によるダメージを受けやすいといえます。また、紫外線により肌が赤くなりやすい人は、角層のバリア機能が低い可能性があります。これらの方は、皮膚のバリア機能を補うスキンケアや紫外線ケアを、より丁寧に行なうことが必要だと考えます。
今後は、この知見を活用し、太陽光を含むさまざまな環境下でも健康で美しい肌で過ごすことができるよう、角層バリア機能が低い乾燥肌、敏感肌などを対象とした紫外線防御技術、より多くの人を対象にした皮膚バリア機能改善技術などの検討をすすめていきます。

〈参考情報〉 MED (minimal erythema dose)

紫外線による皮膚の炎症「紅斑」から紫外線感受性を表す指標のひとつ。紫外線を照射し、16~24時間後に照射領域のほぼ全域(3分の2以上)にわずかな紅斑が生じたところを最小の紫外線量として、単位面積あたりのエネルギー量(mJ/cm2)で表します。