草の根交流

 語義の説明に味のある「新明解国語辞典」(三省堂)に「草の根」はこう書かれている。〈生い茂った雑草の根。劣悪な状況に置かれても大地に根を張ってたくましく生き抜くことのたとえにいう〉▲草の根の交流とはこういうことを言うのだろう。江戸の頃、朝鮮王朝が日本に派遣した外交使節「朝鮮通信使」の行列を、約40年にもわたり再現してきた人々が対馬市にいる▲韓国で朝鮮通信使船が復元され、もうじき開かれる「対馬厳原港まつり」に合わせて対馬市に来航する予定だった。まつりでは体験乗船があり、行列もあり、にぎわうはずだったのに、船の来航が中止されたという▲釜山(プサン)市の団体が企画したが、釜山市長が日韓交流行事の「全面見直し」を表明したのが影響したとみられる。日本の輸出規制の強化が「見直し」の根っこにあるのは言うに及ぶまい▲日韓友好の象徴に、と復元船は望まれていた。期待の山が高いぶん、がっかりの谷もまた深い。まつりを主催する人が「政治と地域交流は切り離してほしかった」と肩を落とす言葉が、ずしんとくる▲行列は今年も行われるという。両国の関係が冷え込む凍土で「根を張ってたくましく生き抜く」という「草の根」の意味をかみしめてみる。口で言うほど「未来志向」がたやすくないのは百も承知で。(徹)

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