【世界から】スウェーデンでも進む「移動手段革命」

大人気の電動キックバイク=Chieko Yahagi Lundberg 2019

 ストックホルムの街中でひんぱんに見かける電動キックバイク。昨年の秋からレンタル自転車を追い越す勢いで一気に広がった新しい移動手段サービスだ。「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」と呼ばれる動きが世界的に注目されている中、ここスウェーデンでも、移動手段が「所有」からレンタルやシェアなど「利用」へという流れに変わりつつある。

▼「MaaS」って?

 MaaSとは、公共交通である電車やバス、タクシー、レンタカー、カーシェアリング、レンタル自転車などあらゆる交通手段を利用者のニーズに合わせ、統合した一つのサービスとして提供することで、利用者の利便性を高めるというもの。移動手段だけでなく、幅広い産業や社会基盤システムに大変革をもたらす可能性があると注目されている。

 例えば、自宅から目的地まで飛行機や鉄道、タクシーなどを乗り継いで行く場合、通常は各交通機関をそれぞれ予約し、支払いをすることとなる。ところが、スマホなどでMaaSに適用したアプリにアクセスすれば、これらのプロセスを一続きのサービスとして利用できる。つまり、それぞれの希望にあった最適な交通手段やルートの検索に加え、それぞれの予約と決済までの全てを一括で済ませることも可能となるのだ。実に効率的だ。

 お隣のフィンランドでは、スウェーデンよりも一足早く、世界で初のMaaSに適用したアプリ「Whim」がスタートしている。このアプリを使えば、最適ルートで向かうのに必要なさまざまな移動手段の予約や支払いまでいとも簡単にできてしまう。さらには定額料金を毎月支払うことで何度でもサービスなどを利用できる「サブスクリプション」の選択もでき経済性も高い。

▼多様化するサービス

 電動キックバイクは、スウェーデン発の会社「Voi」が最初にスタートした。すると、「Lime」や「TIER」、「GLYDE」「MOOW」といった同業者が1年もたたないうちに続々と参入するなど、電動キックバイク市場における競争が激化している。最も〝新参者〟であるMOOWは、スウェーデン自然保護協会が認定している環境的に良い選択(Bra Miljoval)をした電気、つまり再生可能な電気のみを使用することで環境を配慮していることをアピールして、ライバルとの違いを際立たせようとしている。

ストックホルム近郊のバルカビィ地区で定期運行している自動運転の小型電気バス。現在は3台が運行している=Chieko Yahagi Lundberg 2019

 スウェーデンでは今年の4月から始まった「UbiGo」というMaaSが、本格的に稼働し始めたばかり。この新しいサービスの導入は、ストックホルム市、ストックホルムの公共交通機関を運営する「SL」、EVのカーシェアリング会社「Move About」、レンタカー会社「Hertz」、タクシー会社「Cabonline」と連携し、現在ストックホルムの一部の地区で実施されている。

 UbiGoはさまざまなモビリティー・サービスを「まとめる」ことによる利用者の利便性の向上だけでなく、多様な移動手段の効率を高めて交通渋滞の緩和、さらには環境や安全などにも貢献することを目指している。

▼〝自動運転〟の定期バス

 イケアなどもあるストックホルム北部の新興住宅地には、18年秋から、自動運転システムを搭載した小型電気バスが定期運行を始めている。定期運行される前には、別の場所で実証実験などが行われたが、ようやく本格的に開始。定期運行している自走バスとしては世界発である。

 バスは時速15キロ、11人乗りで、自走とは言っても何かあった場合に操作にあたる補助スタッフが常に乗車している。新しい街づくりが行われているこのバルカビィ地区では、平日と土曜日に約15分間隔で現在3台が運行中。この街のアトラクション的存在だ。

 運転補助をしているスタッフに聞くと、「安全だし、静かで乗客にもとても評判がいいよ。以前は公共バスを運転していたけど、ずっと運転していると腰や肩がいたくなったりしたけど、今はそれがないね。それと、前は乗客とも話をする機会はほとんどなかったけど、このバスの操作をするようになってからは、乗客といろんな話ができて、とっても楽しいよ。」と笑顔で答えてくれた。

 来年の春には、小型の自動電動バスではなく、2台のバスが連結した連接自動電動バスが運行される予定とのこと。ストックホルム市内で、無人の電動バスが街中を走るのもそう先のことではなさそうだ。(スウェーデン在住ジャーナリスト、矢作ルンドベリ智恵子=共同通信特約)

EVのカーシェアリグサービス=Chieko Yahagi Lundberg 2019

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