ストーン・ローゼズが蘇らせたサイケデリックな逆再生サウンド 1989年 5月2日 ザ・ストーン・ローゼズのデビューアルバム「ザ・ストーン・ローゼズ」がリリースされた日

数ヵ月前の話になるが、欅坂46(もちろん秋元康プロデュースのアイドルグループのこと)のニューシングル「黒い羊」のイントロを初めて聴いた時、僕はとても驚いた。ピアノの生音の上に「逆再生音」が乗っていたからだ。アイドルソングも舐めたものではない、そう思ったのだ。

「逆再生音」とは、正確には「録音されたテープを逆回転させて再生した音」のことで、これを効果音のような形で取り入れたサウンドを「逆再生サウンド(または逆回転サウンド)」と言う。ポップミュージックの世界では、比較的ポピュラーな録音技術である。

例えば、テイラー・スウィフトの「私たちは絶対に絶対にヨリを戻したりしない(We Are Never Ever Getting Back Together)」のアコースティックギターのイントロには、逆再生的な処理が加えられている。ギターの音が発せられた後に少しずつ音量が上がっていく感じがそれだが、サウンドに洗練さを与えていると思う。

もっと直近で言うと、2017年のグラミー賞で最優秀ラップ / ソング・パフォーマンス(Best Rap / Sung Performance)に選ばれたケンドリック・ラマーの「ロイヤルティ(feat. リアーナ)」では、同じく最優秀レコード(Record Of The Year)受賞作であるブルーノ・マーズの「24K・マジック」をサンプリングして逆再生しているそうだ。

このように録音技術の一つとして取り込まれている「逆再生サウンド」だが、その歴史は意外に古い。ポップミュージックにおいて初めて登場したのは、1966年にリリースされたザ・ビートルズ「ペイパーバック・ライター」のB面に収録された「レイン」だと言われている。この曲のエンディングのフェードアウト部分で、メインボーカルの一部が逆再生された。

このアイデアは、ジョン・レノンが自宅でテープレコーダーを誤って逆再生した時に思いついたと、後に本人が語っている。一方で、プロデューサーのジョージ・マーティンの発案だとする説もあって真偽は定かではないが、正直どっちでもいい。

とにかく、このサウンドは幻想的な浮遊感をもたらすことから、当時のサイケデリック文化とかドラッグカルチャーと呼ばれた「時代」の空気と、非常に親和性が高かった。

実際、ザ・ビートルズにはこの他にも「トゥモロー・ネバー・ノウズ」(アルバム『リボルバー』に収録)や「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」(「ペニー・レイン」と両A面)など、逆再生で知られる楽曲が数多くあるが、その効果によって、より一層サイケデリックなムードが醸し出されている。

もちろんザ・ビートルズだけではない。ジミ・ヘンドリックス「アー・ユー・エクスペリエンスト?」(アルバム『アー・ユー・エクスペリエンスト?』に収録)、イエス「ラウンドアバウト」(アルバム『こわれもの(Fragile)』に収録)、クイーン「オウガ・バトル(人食い鬼の闘い)」(アルバム『クイーン II』に収録)など、多くのミュージシャンが後に続いた。そういう「時代」だったのだ。

ところが、70年代に入ってベトナム戦争が収束に向かい、東西冷戦の緊張緩和が進み、時代の空気が大きく変わると、「サイケデリックなムードを伴った逆再生サウンド」は徐々に影を潜めることになる。その後は、隠し味的な録音技術の一つとして定着していった。

こうして月日が流れ、80年代も終わろうとする頃に登場したのが、英国マンチェスター出身のザ・ストーン・ローゼズだった。デビューアルバム『ザ・ストーン・ローゼズ(石と薔薇)』は、英国の音楽誌『NME』によって「Best British album of all time revealed(古今最高の英国アルバム)」に選ばれたが、中でも僕の印象に残っているのが「ドント・ストップ」だ。

と言うのも、この曲が丸ごと「逆再生サウンド」で、時代錯誤なほどにサイケデリック感満載だったからだ。同じくデビューアルバムに収録された「ウォーターフォール」をひっくり返して、新たにボーカルを乗せたというから、かなりの変態だ。

お陰であの「時代」の浮遊感とか、幻想的な感じが再現されている訳だが、もしかすると、そういう感覚を得られたのは、この曲が最後だったかもしれない… そんなことを、僕は意外なきっかけで思い出したのだった。

Billboard Chart , Official Charts & Oricon Chart
■ The Beatles / Paperback Writer (1966年6月25日 全米1位、1966年6月29日 全英1位)
■ The Beatles / Penny Lane/Strawberry Fields Forever (1967年3月8日 全英2位、1967年3月18日 全米1位)
■ Taylor Swift / We Are Never Ever Getting Back Together (2012年9月1日 全米1位、2012年10月6日 全英4位)
■ Bruno Mars / 24K Magic (2016年12月10日 全米4位、2016年11月17日 全英5位)
■ Kendrick Lamar Featuring Rihanna / Loyalty. (2017年5月6日 全米14位、2017年4月27日 全英27位)
■ 欅坂46 / 黒い羊 (2019年3月11日 オリコン1位)

Billboard Chart&Official Charts(Album)
■ The Beatles / Revolver (1966年8月13日 全英1位、1966年9月10日 全米1位)
■ Jimi Hendrix / Are You Experienced? (1967年6月10日 全英2位、1968年10月5日 全米5位)
■ Yes / Fragile (1971年12月4日 全英7位、1972年2月26日 全米4位)
■ Queen / Queen II (1974年4月6日 全英6位、1974年6月15日 全米49位)
■ The Stone Roses / The Stone Roses(1990年2月3日 全英19位、1990年4月28日 全米86位)

カタリベ: 中川肇

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