子育て・介護家庭に朗報?「迷子発見QRシール」は普及するか

地図帳『マップル』を発行している昭文社が、認知症の人や迷子の早期発見を支援するサービスを始めました。その名も「おかえりQR」です。

道に迷った人を発見した人が家族に居場所を通知するサービスは、すでにいくつか存在します。今回の昭文社の新たな取り組みは、こうした既存の類似サービスとどこが違うのでしょうか。


QRコードを読めば地図付きで通知

おかえりQRの使い方は簡単で、QRコード付きのシールを買い、専用のWebサイトにアクセスして、ユーザー登録を済ませたら、認知症の人や小さな子供など、道に迷う可能性がある人の持ち物や衣服に貼るだけです。

既存の類似サービスは通知方法が文字中心ですが、昭文社が始めた新サービスは地図会社の強みを生かし、地図で場所を示して通知してくれます。見つけてくれた人がスマートフォンでQRコードを読み込むと、専用のWebサイトが開き、指示に従って入力すると、その人が今どこにいるのか、家族のところに地図付きで通知されるのです。

通知の仕方もいくつか段階があります。近くの交番などに連れて行き、その交番の場所も通知することもできますし、その時間がなければ、とりあえず場所だけ通知することもできます。

見つけてくれた人からの通知は昭文社のサーバーを通るので、通知した人に通知先の情報はいっさい伝わることもありませんし、通知を受けた側にも通知してくれた人の連絡先は伝わりません。

昭文社のサーバーを通って通知するメリットは他にもあります。既存の類似サービスは主に自治体主導で、連絡先として自治体関連の電話番号が書かれているのですが、就業時間外に連絡しても当然のことながら誰も出ません。しかし、おかえりQRは24時間稼働している昭文社のサーバーを使うので、365日、24時間機能するのです。

誕生のきっかけは社員の苦い経験

シールはA4版の台紙に全部で10枚貼られていて、サイズは大きいものが4枚、小さいものが6枚。7月24日から、島しょ部も含む東京都内の全郵便局1,467局で一斉に発売されました。1シート1,800円(税別)で、月額使用料はかかりません。

都内の全郵便局で販売中

このサービスは、昭文社の営業担当の社員の体験から生まれました。営業先に向かっている最中に、認知症らしきおばあさんが激しく車の行き交う環状8号線をふらふらと渡って行ったのだそうです。この社員はこの時、何もできなかったことを後悔し、新サービスを思いついたのだそうです。

通知方法を何段階かに分けたのは、営業先に向かう途中で発見しても、交番まで誘導したり、家族が到着するまで待つのは難しいことを、身をもって体験したから。家族にしてみれば、そこまでしてもらわなくても、少なくともその時間にその場所にいたということがわかるだけでも助かるはずです。

もともと本業で全国の地図情報を蓄積しているうえ、出版社なので読み取り精度が高いQRコードの印刷技術にも長けていることが、既存の類似サービスに比べて秀でている点といえます。

自前で地図情報を持っていないと、持っている会社から購入することになり、低価格での提供はできないはず。昭文社はかかったコストは回収する必要があるものの、これで利益を稼ぐつもりは毛頭ないそうです。

また、シールは雨に強い材質を使い、杖など曲面に貼ることも想定済み。それでも、正確に読み込めるようにしてあります。

認知度向上に必要なことは?

このサービスが十分に機能するうえで最大の課題は、「存在を世間に知ってもらう」ことでしょう。このシールが何なのか知らないと、怪しげなサイトに誘導されるのではないかと警戒されて、読み込んでもらえない可能性があります。

認知症の人や迷子を見つけた人が、最も頼りにするのは町中の交番ですから、交番勤務の警察官の方への周知はmustでしょう。郵便局員や新聞配達スタッフなど、地域の事情に詳しい人たちの認知度が上がれば、見つけて通知してもらえるだけでなく、普及にも貢献してもらえるはずです。

このサービスは、今回の本格始動に先立ち、埼玉県・川口市、蕨市など県南部で実証実験を行っていますので、埼玉県警ではサービスの存在を認識していますが、警視庁管内で警察官に認識してもらうには、まだ時間がかかるでしょう。

大量の迷子が発生する施設での利用も、認知度向上につながるのではないでしょうか。遊園地や動物園、イベント会場や野球場など、多くの人が集まる場所では、日々、多くの子供たちが迷子になり、その対応のために配置しているスタッフの負担は軽くありません。このサービスが普及すれば、スタッフの負担軽減につながるとみられます。

認知度向上の起爆剤になりそうなのが、落とし物捜索への利用です。なくしたら困るものにこのシールを貼っておけば、発見された場所を早期に知ることができます。落とし物を早期に発見できるということは、老若男女を問わず、家族に認知症の人や小さい子供がいる・いないに関わらず、すべての人にとって導入のインセンティブになります。

落とし物発見用に使ってもらうにはもう少しデザインを改善したほうが良さそうですが、早期に広く普及してくれれば、高齢化社会が抱える問題にとって1つの処方箋となるかもしれません。

© 株式会社マネーフォワード