[How to use SSD with DRONE]Vol.01 RAW時代に必須なものはSSD

左から2.5インチSSD、ポータブルSSDのT5、X5。いずれのSSDもHDDに比べれば小型軽量であるが、T5は特にコンパクトで縦74mm、横57mmしかない

RAW時代の到来

映像制作をする際に、注意を払う点が数多くある。映像の構成、構図、照明など様々な要素があるが筆者が一番技術的に気をつけている点は色飛びである。

どんなに綺麗な被写体でも、ハイライトが飛んだりシャドウが潰れていたら被写体としての魅力が大きく損なわれてしまう。そこで行き着いた答えが最大限の画質とダイナミックレンジを確保可能なRAW撮影である。

そのため地上のカメラは当初使っていたEOS C100から順次アップグレードを重ね8K RAW収録が可能なRED MONSTRO 8K VVを選定している。空撮用のカメラもInspire 1用のX3から現在では6K RAW撮影が可能なInspire 2用のX7カメラに統一しており、筆者が撮影する場合はどんな案件でもRAW撮影を基本としている。

X7カメラは最大6K 30fpsのRAW撮影が可能であり空撮一体型システムとしては最高スペックを有する

ごく最近までRAW撮影はデータ量が膨大で、処理が難しく、コストがかかり過ぎると言われていた。しかしHDDやPCの値段が大きく下がり、またカメラもURSA Mini 4.6KやBMPCC 4Kなどコストパフォーマンスに優れながらも高画質でRAW収録が可能なカメラが次々と登場しており、今ではRAW収録は珍しいものではなくなっている。

データサイズの小さい圧縮コーデックでの撮影も一定の利点はあるが、カラーグレーディング時に色が破綻しやすく、かえって手間がかかる事が多い。またデコードに時間が必要で必ずしも編集時間が短くなる訳でもなく、本気で映像制作に取り組むのであればRAW収録は避けては通れないものであると考えている。

RAW時代に絶対必要なSSD

映像制作にあたり、カメラなどメイン機材やそのスペックに目が行ってしまいがちであるが、データのバックアップ体制を抜きにはRAW撮影を語る事はできない。 RAW撮影は通常の撮影に比べデータ量が大幅に増える。例えば筆者が使用しているRED MONSTRO 8K VVでは、よく使用する8K 24fps、5:1圧縮のファイル形式で毎秒259MBのデータが必要で、960GBのメモリーカードでの収録時間は63分である。

REDは圧縮RAWを採用しており、比較的効率的に撮影可能である。それでもデータ量は1時間の収録で約1TBである

非圧縮のファイルフォーマットを採用しているX7は更にデータ量が膨大で、最大で1フレームのファイルサイズが約15MB(写真のRAWファイルそのものである)、480GBのメモリーカードでも収録時間は10~15分程度しかない。この事からもRAW撮影のデータ量の大きさがお分かり頂けたと思う。

X7カメラ収録用の480GB CineSSD(左)と960GB RED Minimag。RAWカメラ収録メディアは基本的にはSSDである

しかしカメラスペックに目が行くばかりにバックアップまで考えていない制作会社も多く、REDやX7指定の案件でもバックアップ用支給メディアがほとんどの場合、家電量販店でも購入可能な安価なHDDである。

HDDでもRAWデータのバックアップは可能であるがHDDの最大ファイル転送速度は100MB/s程度である。膨大なCinema DNGファイルが生成されるX7カメラでは転送速度が更に落ち60MB/s程度になってしまう。

例えばREDで1時間、X7カメラで30分の収録を行った場合、HDDでのバックアップの所要時間はそれぞれ約2時間半と4時間半である。バックアップで2つのコピーを作る場合、HDDでは最大で半日近くの時間が必要であり、時間がタイトな撮影現場では非現実的な数値である。

RAW撮影ではカメラや編集機器ばかりに注目がいってしまいがちであるが、バックアップ機材を転送速度に優れたSSDにしないと業務そのものが成り立たず、SSDはRAW撮影では必須の機材と言える。

HDDはCinema DNG連番などファイル数が多いデータの転送が苦手である。例えば3TBのデータを転送する場合、最初のうちはスペック通り100MB/s近くのスピードが出ていたが次第に減速し、最終的には30MB/s前後までスピードが落ちた。3TBのデータ転送が終わったのは実に21時間後であった。

Samsung SSDが制作現場にもたらすメリット

筆者は2年前からSamsungの2.5インチSATAをエンクロージャーに入れて現場でのバックアップに使用している。Samsung SSDは信頼性が高く、他社と比べても大容量のラインナップが多いのが採用の大きな理由である。現在使用している2TBの850 EVOと4TBの860 EVOのファイル転送速度は実測で400MB/s前後であり、HDDに比べて4倍程度高速である(DNGのファイル転送時のみ350MB/s前後)。

HDDでは半日近くかかるバックアップの時間も2時間前後に圧縮でき、時間がタイトな撮影現場ではこの差は非常に大きいと言える。

またHDDに比べSSDは可動部品がなく、小型で耐久性が高いためバックアップ機材としてより適任である。海外ロケでHDDを日本に発送したところ、輸送の衝撃でHDDが破損した事例を聞いた事があるが、SSDでは破損の恐れも少なく、データ保全の点からもSSDはHDDに比べ大きな優位性がある。

Samsung Portable SSD T5/X5

普段からSamsungのSSDを使い現場のバックアップを行なっているが、今回新規に2TBのSamsung Portable SSD T5とSamsung Portable SSD X5を撮影現場でテストした。テスト結果の詳しい結果は次号で掲載するがそれぞれの特徴を簡単に記載したい。

T5は小型、軽量のSSDで重量はわずか51g、サイズも一般的な名刺より小さく、2.5インチSSDに比べ半分程度。ファイルを暗号化する機能も搭載されており、CM撮影などの大型案件では非常に重宝する機能だ。スペック上のデータ最大転送速度は540MB/sである。

Samsung Portable SSD X5はThunderbolt 3インターフェースを採用しており、X7カメラなどThunderbolt 3に対応したリーダを活用したデータ転送に威力を発揮しそうである

一方Samsung Portable SSD X5は、Thunderbolt 3接続のSSDであり、書き込み速度は最大2300MB/sに達する。特に空撮用のX7カメラにはThunderbolt 3対応のカードリーダーもあり、転送速度の大きな向上が見込めると考えている。

次号ではこれらSamsung Portable SSD T5/X5と、860 EVOとRAIDエンクロージャーを実際の現場で使い、使用感や実際のデータ転送速度などをレポートしたい。

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