【すてきナイス粉飾疑惑 名門失墜(上)】創業家2代目、社内に物言えぬ空気 不正の構図

すてきナイスグループの本社ビル =横浜市鶴見区

 ワイシャツは白で統一、ゴルフは禁止、役員はたばこを吸ってはいけない-。

 金融商品取引法違反容疑で逮捕されたすてきナイスグループ(横浜市鶴見区)の前会長で、「清く、正しく、まじめなナイス」を標ぼうしていた平田恒一郎容疑者(71)。第三者委員会の調査報告書によると、違反した役員には降格も辞さなかった。

 厳格なしきたりは他にもあった。住宅部門の役員に対しては、分譲した新築マンションが完売するまで、会議のたびに起立させて謝罪を強いたとされる。

 平田容疑者は創業家の2代目として1977年に入社し、11年後に社長の座に就くと、主要なグループ会社でもトップを兼務して地盤を固めた。

 父親が経営の一線を退くと、その存在感はますます高まった。部長級以上の人事権を掌握し、マンションの販売など実務面でも陣頭指揮を執る場面がしばしば見られた。

 個人筆頭株主でもあり、「圧倒的な影響力」で「他の役職員に恐れられていた」という振る舞いはいつしか、社内に物言えぬ空気をはびこらせたと、報告書は指摘している。

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 「決定事項です」

 2015年2月5日。来る決算に向けた打ち合わせで、経理部門の幹部は、自身の指示が「絶対」であることを告げた。

 粉飾決算に当たるのでは-。そう憂慮した担当者は、言葉の裏に平田容疑者の意向を感じ取り、口をつぐんだ。

 「首都圏のマンションをまとめて『ザナック』に売却したい。粗利で1.5億から2、3億円の物件を選定してほしい。資金は子会社から融資する」。指示はそんな内容だった。

 すてきナイスは15年3月期決算で業績予想を下方修正したものの、その数字すら達成が見込めず、赤字転落の可能性もちらつく苦境にあった。平田容疑者は、取締役会で繰り返し改善を求め、上層部はありとあらゆる方策を検討し始めた。

 報告書が「会計上、認められない」と認定した30億円強の売り上げ計上は、こうした事情などを背景に進められた不動産取引の「成果」だった。

 報告書によると、すてきナイスの周辺には、表向きには出資関係がない「支配会社」が複数存在していた。その一つが、09年に設立され、グループ社員が取締役を務める「ザナック」だった。

 目標数値の必達が課せられた決算月の15年3月、ザナックは、すてきナイスが所有する県内の新築マンション70室や宮城・仙台の土地計約5700平方メートルなどを次々と購入した。その原資は、グループ会社が貸し付けた35億円だった。

 不自然な点はいくつもあった。

 特に県内のマンション売買では、ザナックに所有権の移転登記がなされず、最終的に一般顧客が購入するまでの実務はすてきナイス側が担った。そもそも、ザナックはそれまで新築マンション事業を手掛けていなかった。

 報告書はこうした客観的事実を積み上げ、一連の取引は「決算対策」の色合いが強く、経済的な実態が伴っていないと言及。外部の顧客に売却された段階まで売り上げを計上できないとして、不適切な会計と結論付けた。

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 報告書は、企業統治の仕組みが十分に機能しなかった点も問題視した。

 すてきナイスの監査法人は上場以来、半世紀以上変更がない。関与年数の長さは経営環境への理解を深める一方、なれ合いが生じる懸念をはらむ。

 実際、ザナックとの取引を巡っては、社内の監査担当者が監査法人に疑義を呈したが、問題が表面化することはなかった。

 また、持ち株会社であるすてきナイスには、グループ傘下の事業を監督する役割が求められるが、中核を成す「ナイス」と役員らが共通していたため、けん制機能を果たせなかったと批判した。

 第三者性が求められる社外取締役の1人が名義上、ザナックの親会社の全株式を持っていた事実も明らかにした。実質的な所有者は平田容疑者だったとも断定した。

 企業統治体制はあちこちできしみ、自浄作用が働きづらい状況下にあった。

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 建築資材の流通業界で国内有数の地位を築き上げたすてきナイスグループが、粉飾決算疑惑を巡る前会長らの逮捕で窮地に追い込まれた。不適切会計を認定した第三者委員会の調査報告書をひもとき、問題の背景に迫る。

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