その43 多様性を受け入れる

「ちゃんと手に持って食べなさい!」子供がテーブルにお茶碗を置いたままご飯を食べているのを見てお母さんが注意します。日本では当たり前の食事のしつけですが、世界の多くの国では食器を手に持って食べるのはマナー違反です。

海外で生活していると、子供のしつけや礼儀作法を日本流にすべきか、国際流にすべきか、判断に迷うことが多々あります。「日本の文化や価値観を身に付けてもらいたいが、国際社会でもうまくやってほしい」欲張りなようですが、海外で子育てをしている親の切実な願いです。

文化や価値観は 自分たちに基づく

結論から言いますと、世界中のどこに住んでいようと、両親は自分たちの価値観や文化に基づいた子育てやしつけをしてください。子供の価値観や文化観を最初に形作るのは、親なのです。

異国で育つ子供たちにとって、親から与えられた言葉と文化は「アイデンティティー」の土台となる大切なものです。この土台が不安定だと、子供が自己形成の過程で葛藤を抱えたり、アイデンティティーがあいまいな「根無し草」状態に陥ったりすることがあるので、注意しましょう。

多文化感覚を 親が持つということ

家庭では日本語を話し、和食を食べ、日本的な生活をしていても、家から一歩外に出ればそこは外国です。現地校ではその国や地域の文化、価値観、行動様式、思考技術が指導され、それに従うことが期待されます。

海外で生活する子供たちは、毎日二つの言葉と文化の間で、混乱し、迷い、とまどいながら成長していきます。そんな特殊な環境において、子供が自己を見失うことなく異文化に適応していくには、親が多様な文化を受け入れる柔軟性を持つ事が大切です。

世界は多様なもので成り立っていて、文化や習慣に上下や優劣はない。自分の文化を大切にするのと同じように、他者の文化も尊重し、受け入れる。そんな柔軟な文化感覚を、日常生活の場面で子供に伝えていくことが親の役割です。

日本文化を 教えてあげる

国際社会では一人一人がそれぞれの国や地域の代表です。これは子供の社会でも同じで、日本人の子供は「日本の代表」のように扱われます。学校で先生や周囲の生徒から「日本ではどうなのか?」といつも質問されるのです。

子供は日本のことを知っていなければならないのです。両親は日本のこと、日本文化のことを子供に教える先生です。家庭では日本の昔話を読み聞かせたり、日本の祝祭日を祝ったり、日本流の礼儀作法を教えたり、日本の伝統芸能を習わせたりしてください。おすしやラーメンのウンチクだって文化教育です。

また日本と外国の違いについて子供と対話をしましょう。日本ではお茶碗を手に持って食べますが、欧米では食器を手に持つのはマナー違反。どちらが良い悪いということでなく、文化の違いであり、それぞれの文化を尊重し、場面に応じて使い分けることを教えてあげてください。

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