野口五郎「真夏の夜の夢」の衝撃 ♪ ゴロンボ刑事よフォーエバー! 1979年 4月21日 野口五郎のシングル「真夏の夜の夢」がリリースされた日

「昭和で一番好きな年は?」と尋ねられたことがある。「1979年」と即答した。自分の変わり目としても歌謡曲を取り巻く転換期としても文句なしに1979年が好きだし1979年を選ぶ。

折しも今年は2019年。もう、1979年から40周年というだけでパーティーを開きたいくらい嬉しい。毎晩でも乾杯したい。おめでとう40周年。ありがとう40周年。

『コント55号のなんでそうなるの?』放送休止時の補完番組として始まったという日テレの最高バラエティ『カックラキン大放送!!』も、ゴロンボ刑事が大活躍した1979年、野口五郎メインの黄金期が一番好きだ。

ダジャレをかます五郎、坂上二郎や研ナオコと阿吽の呼吸でコントを繰り出す五郎、兄さん兄さんと走ってくる車だん吉、「馬鹿馬鹿しいと思うなよ。やってる本人大真面目」とギャグをきらめかせるラビット関根(現・関根勤)、五郎が歌うフィナーレの曲の余韻。何もかもを愛していた。

この時点で小学生高学年の私にとって、野口五郎のイメージは「とにかく面白い新御三家アイドル」である。当時のアイドルは誰も彼も上手にコントをやりこなしていたが、五郎のセンスはクールでピカイチだった。駄洒落も良かった。正直シングルはしっとりと歌い上げる系の曲が多く、子供の私にはさほど強い印象がない。「グッド・ラック」は大人になってからその良さが身体中に染み渡ったけど。

だから30thシングル「真夏の夜の夢」を初めて聴いた時には仰天した。どうした五郎、私の知ってる五郎と違う!イメチェン!? ゴダイゴやツイストを聴き始めた小学女子の耳に彼のロックは幻想とプロっぽさ、不可思議な生々しさを運んできた。

ジャケットには野口五郎よりも大きなサイズで GORO。今までと違う五郎。ギターをかき鳴らす五郎。大人の男の匂いにちょっとドキドキする。阿久悠の歌詞がまた震えるほど謎だった。

 夢よ 夢よ 夢よ 夢よ 夢よ 夢よ  真夏の夢よ  深い 深い 深い 深い 深い  眠りに誘えよ  あなたはバラ ぼくは蝶  あなたはバラ ぼくは蝶  真夏の夜の夢

さらに、♪ Dreaming Dreaming Summer Night~ ♪ という EVE のコーラスが読経のようにぐるぐると頭で回って回って回って回るのだった。

たぶんこの曲で私の脳はサイケデリックなトリップをしたんじゃないかと思う。痺れるような衝撃とインパクトに導かれ、熱に浮かされたようにミステリー小説を書き上げてしまったのだ。一夜で。もしかしたら自動書記状態だったかもしれない。

タイトルは『怪奇!真夏の夜の夢』。 別にホラーではなかった。内容はよく覚えていないんだけど、父と二人暮らしの娘が主人公だ。毎晩娘が寝た後に父は出かけていく。ある夏の晩、父の後を尾ける娘。だが、途中娘は意識不明になり、気づくと朝には布団の中にいた。そんな夜が幾晩か続き…。

結局父はシリアルキラーで、最後に娘が現場を見つけ、父はショックで自死を遂げる。その凄惨な光景を見た野次馬が「これぞまさしく真夏の夜の夢やな」と呟いて物語は終わる。

乱歩やクリスティの影響は多分にあると思われるが、なぜ関西弁なのかは分からない。

書き終わってすぐ、唯一の読者であった妹に読んでもらった。以来、妹はこの小説の存在を決して忘れない。夏場、何か事件のニュースに遭遇するたびに「これぞまさしく真夏の夜の夢やな」と、言い放って爆笑するのだった。

野口五郎のシングル「真夏の夜の夢」は1979年のオリコンチャートで最高位16位、「ザ・ベストテン」では最高位8位と、決して爆発的ヒットには至っていない。

でも、私にとっては「真夏の夜の夢」といえば、シェイクスピアの小説より、松任谷由実のシングルより、なんと言っても野口五郎なのだ。たぶんこの夏も100回くらい聴くと思う。一生聴くと思う。

カタリベ: 親王塚 リカ

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