INF条約が消滅

 「収穫は露から生まれるのではなく、汗から生まれる」というロシアのことわざがあるらしい。レーガン米大統領がこれを引用して成果を誇ると、ソ連共産党のゴルバチョフ書記長は「将来、大きな平和の木となる苗木を植えた」と、こちらも胸を張った▲1987年12月、2人は中距離核戦力(INF)を全て廃棄する条約の書面にサインした。当時の本紙を繰れば「史上初の核廃棄へ」「歴史的な第一歩」と大見出しが並ぶ▲増える一方だった核弾頭を、初めて双方が減らすよう約束した。条約が歯止めとなり、多いときで7万発あった世界の核弾頭はいま、1万4千発を割り込んでいる▲苗木は育った。確かに育ったのだが、ゴルバチョフ氏が予告した「大きな木」にはならなかった。ロシアが約束を破ったとして、米国は今年に入り条約の破棄を告げ、ロシアがこれに反発して、条約は2日に失効、つまり消滅した▲2国間の取り決めを横目に、中国は核戦力を整備してきた。米国はこの動きに対抗し、今や“足かせ”となった条約を取っ払おうとしたらしい。核搭載できる中距離ミサイルの開発に、米ロとも本腰を入れるとみられる▲いつか突き進んだ軍拡競争の道を、再びたどっているかに見える。たどるべきは、いつか歩んだデタント(緊張緩和)の道だというのに。(徹)

© 株式会社長崎新聞社